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4つのプランの栄養基準と、実際にいくらかかるのか。継続割の解約条件と、向いていない人の条件まで、公式に出ている数字だけで並べました。

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玄米に毒はあるのか|ヒ素・アブシジン酸・フィチン酸・農薬を論文で検証

玄米に毒はあるのか|ヒ素・アブシジン酸・フィチン酸・農薬を論文で検証

「玄米には毒がある」という一文を見て、炊飯器の前で手が止まったことはありませんか。私はあります。しかも5年前、その不安に答えるつもりで書いた記事が、いま読み返すと穴だらけでした。

この記事は、2021年に私が書いた「玄米の落とし穴【毒】はあるの?エビデンスを徹底検討!」を全部書き直したものです。当時の私はアブシジン酸とフィチン酸の2つだけを取り上げて「問題ない」と結論し、無機ヒ素にはひと言も触れていませんでした。出典としてリンクを張っていたのは、自分のパソコンの中にあるPDFのファイルパスでした。読者が開けるはずがありません。いちばん数字で語れる論点を落とし、いちばん基本的な作法を守れていなかった。ここは取り下げて、全部やり直します。

※この記事は一般的な食品安全・栄養研究の解説です。妊娠中・授乳中の方、乳幼児の食事を決める方、炎症性腸疾患などで食事内容の指示を受けている方は、自己判断で食事を変える前に主治医・管理栄養士の指示を優先してください。

先に結論を3行で置きます。

この記事の結論

  • ネットでいちばん怖がられているアブシジン酸は、ヒトで毒性を示した臨床的な根拠が見あたりません。むしろヒトの体自身がつくって使っている分子です
  • 数字で確かめる価値があるのは、話題になりにくい無機ヒ素のほうです。玄米は白米より確かに多く、日本の実測で中央値0.12対0.09 mg/kgでした
  • ただし「だから危険」とも「だから安全」とも言い切れません。評価機関によって物差しが違い、日本と米国で結論の出し方が変わるからです。この記事はその物差しごと見せます

この記事でわかること

  • 玄米の「毒」として語られる4つを、同じ物差しで並べ直すとどう見えるか
  • 「検出された」から「危ない」までに5つの段階があること(ここを飛ばすと話がねじれます)
  • 浸水は何時間がいいのか。水を捨てるとヒ素が6割減るという数字は本当か
  • 発芽玄米・無農薬玄米を選ぶと、何が変わって何が変わらないか
  • 玄米にしてお腹の調子が悪くなった人が、次にとるべき手
  • 2021年版の記事から、私が取り下げる主張

私は臨床検査技師です。仕事は測ることそのもので、「検出されたかどうか」と「どれくらいあるか」と「体にとって多いのか」は全部べつの質問だという前提で毎日を過ごしています。玄米の毒の話は、まさにそこがぐちゃぐちゃになっています。

目次

結論:玄米で数字を確認すべきなのは無機ヒ素

玄米について「毒」と呼ばれているものは、大きく4つあります。アブシジン酸・フィチン酸・無機ヒ素・残留農薬です。

ただし、この4つは本来まったく性質の違うものです。アブシジン酸とフィチン酸は玄米そのものに含まれる成分、無機ヒ素は土壌や水に由来してコメが吸い上げてしまう元素、残留農薬は栽培で使われた薬剤の残り。ひとまとめに「毒」と呼ぶこと自体が、話をわかりにくくしています。

そこでまず、4つを同じ表に並べます。

表1:玄米の「毒」として語られる4つを、同じ物差しで並べる
論点 ネットで言われていること 実測・研究で言えること 減らす手
アブシジン酸 「ミトコンドリアを傷つける猛毒」「顔が土気色になる」 ヒトでの毒性を示した臨床的な根拠は確認できない。ヒトの細胞自身も産生している分子 そもそも減らす必要が示されていない
フィチン酸 「ミネラルを体外に排出させる」 金属と結合して吸収を妨げるのは事実。ただし食事全体のフィチン酸量とミネラル量の比で決まる 浸水・発芽(−36〜−66%)
無機ヒ素 最近の海外報道で急に話題に 玄米は白米より多い(中央値0.12対0.09 mg/kg)。4つのなかで唯一、行政が濃度基準を置いている ゆでこぼしてから炊く(玄米で−54%)
残留農薬 「糠に溜まるから玄米は危険」 玄米のほうが残るのは事実。ただし調査された実測値は基準値のごく一部だった 精米する/有機・特別栽培を選ぶ

この表を見ると、話題の大きさと数字の大きさが逆になっていることがわかります。

図解1:話題の大きさと、数字の大きさは一致しないネットで「毒」と言われている強さ →実測での大きさ →残留農薬アブシジン酸フィチン酸無機ヒ素ここだけ行政が濃度基準を置いている縦軸は「実測値の大きさと、公的機関が管理対象にしているかどうか」を筆者がまとめた相対的な位置づけです。毒性の強さの順位ではありません。

ですので、この記事は無機ヒ素から入ります。「アブシジン酸が心配で検索した」という方は、そこだけ読んでいただいても構いません(目次から飛べます)。ただ、順番としては数字のあるほうを先に置きます。

無機ヒ素——玄米は白米より多い

ヒ素は、火山活動や鉱物の風化といった自然現象で環境中に放出される元素です。土にも水にも、もともと広く存在しています。ですから、さまざまな食品や飲料水は低濃度のヒ素を含んでいます。

食品中のヒ素は大きく有機ヒ素無機ヒ素に分かれ、一般に無機ヒ素のほうが毒性が高いとされます。そして農産物のなかでは、コメがほかの農産物よりヒ素濃度が高く、しかも含まれるヒ素の多くが無機ヒ素であることがわかっています。水を張った田んぼでの栽培という育て方が関係しています。

日本の玄米に、実際どれだけ入っているか

農林水産省は、国産米の無機ヒ素の含有実態を継続的に調べています。集出荷施設などから、地域の水稲作付面積に応じた点数を採取した大規模な調査です。

表2:国産米の無機ヒ素・カドミウム濃度(農林水産省の含有実態調査)
調査年産 対象 点数 中央値 平均値 最大値
令和4〜6年産
(無機ヒ素)
玄米 899 0.12 mg/kg 0.13 0.37
精米 899 0.09 mg/kg 0.09 0.23
平成29〜令和元年産
(無機ヒ素)
玄米 1,500 0.15 mg/kg 0.16 0.60
精米 1,000 0.09 mg/kg 0.095 0.26
令和4〜6年産
(カドミウム)
玄米 899 0.03 mg/kg 0.04 0.24
精米 899 0.03 mg/kg 0.03 0.23

読み取れることを3つ書きます。

1つめ。玄米は精米より多い。最新の令和4〜6年産(それぞれ899点)で比べると、中央値は玄米0.12・精米0.09 mg/kgで、玄米が約1.3倍です。さらに平成29〜令和元年産の調査では、同じ玄米をとう精して同一試料で比較しており、精米の濃度は玄米の中央値64%(最小38%・最大86%、1,000組)でした。逆に言えば玄米は精米の約1.6倍。同一試料での比較のほうが厳密なので、幅としては1.3〜1.6倍と見ておくのが正確です。

理由ははっきりしていて、ヒ素はぬか層に偏って存在するからです。とう精でぬかを削る白米は、そのぶん濃度が下がります。玄米の栄養価が高いのと、まったく同じ理屈です。

2つめ。減ってきている。玄米の中央値は0.15から0.12 mg/kgへ下がりました。農林水産省が生産地域ごとの低減対策を進めている効果が見えている、ということです。

3つめ。カドミウムは玄米と精米でほぼ差がない。中央値はどちらも0.03 mg/kg。「玄米は重金属が多い」とひとくくりにされがちですが、成分ごとに挙動が違います。

「検出された」と「多い」と「危ない」は、別の話です

ここが、この記事でいちばん書きたいところです。

検査の現場では、「検出された」という一言だけで判断することはありません。検出されたかどうかは、単に分析機器の検出限界より上か下かという話にすぎないからです。実際に体にとって多いかどうかを言うには、まだ4つの段階を通る必要があります。

図解2:「検出された」から「危ない」までは5段階ある① 検出されたか機器の検出限界より上か下かというだけ。「ゼロ」の食品はほぼありません② 食品中の濃度(mg/kg)玄米0.12 / 精米0.09。0.12 mg/kg=120 µg/kg=120 ppb は全部同じ値です③ どれだけ食べるか濃度が同じでも、食べる量が2倍なら入ってくる量も2倍。炊き方でも変わります④ 体重あたりの1日摂取量(µg/kg体重/日)ここで初めて人と人を比べられる。食品中の濃度とは単位も意味も別物です⑤ どの物差しと比べるかここが機関によって違う。同じ摂取量でも、使う指標が変われば結論が変わります

ネット上の玄米毒論のほとんどは、①か②で止まっています。「検出された」「白米より多い」まではその通りでも、そこから④⑤を飛ばして「だから危険」に着地している。逆に「基準値以下だから安全」も、⑤の物差しがひとつではないことを見落としています。

順番に見ていきます。

基準はどこに引かれているか

国際食品規格を策定するコーデックス委員会は、コメの無機ヒ素に最大基準値を設定しています。2014年に精米(研磨米)0.2 mg/kg、2016年に玄米(もみを除いた米)0.35 mg/kgです。玄米だけ別に、しかも高い値が置かれている——これは「玄米のほうが多い」ことが国際的に織り込み済みだという意味です。

EUはさらに細かく、2023年の改正規則で区分ごとに定めています。

表3:コメの無機ヒ素の最大基準値
区分 コーデックス委員会 EU(2023年改正)
精米(非パーボイル) 0.20 mg/kg 0.15 mg/kg
玄米・パーボイル米 0.35 mg/kg 0.25 mg/kg
米粉 0.25 mg/kg
乳幼児向け食品の製造用米 0.10 mg/kg
ライスドリンク(ノンアルコール) 0.030 mg/kg

国産玄米の中央値0.12 mg/kgをこの表に当てると、コーデックスの玄米基準の約3分の1、EUの玄米基準の約半分です。最大値0.37 mg/kgでようやくコーデックス基準に並びます。

ただし、日本は現時点でコメの無機ヒ素に国内基準値を設けていません。低減対策を生産側で進める、というやり方をとっています。「基準値以下だから安全」と書けるほど話が単純ではないのは、そのためでもあります。

日本人はどれだけ摂っているのか。そして物差しは1つではない

ここからが④と⑤です。

食品安全委員会の評価によれば、日本人が食事から摂る無機ヒ素は平均18.6 µg/日(体重あたり0.315 µg/kg体重/日)、多いほうの95パーセンタイルで44.5 µg/日(0.754 µg/kg体重/日)と推定されています。ほかの調査を含めると0.130〜0.674 µg/kg体重/日という幅があります。

そして摂取源の内訳は、コメが約6割、次いでヒジキが約3割と報告されています。日本人の無機ヒ素は、ほぼこの2つで決まっているということです。

では、白米を全部玄米に替えるとどうなるか。ごく単純化した試算をしてみます。

単純化した試算

平均0.315 µg/kg体重/日のうち、コメ由来を6割と仮定すると約0.19。コメの濃度が0.09から0.12 mg/kgへ、つまり約1.33倍になると仮定すると、コメ由来は約0.25。残りの食品からの分(約0.13)を足すと、合計はおよそ0.32から0.38 µg/kg体重/日へという計算になります。

※これは異なる調査の値を組み合わせた概算です。生の米の濃度比がそのまま摂取量の比になること、コメの摂取量や炊き方が変わらないことを仮定しています。個人の実際の曝露量を示すものではありません。

問題はここからです。この0.38という数字を、何と比べるか。

食品安全委員会が2013年の評価で示したBMDL(ベンチマークドースの信頼下限)は、皮膚・神経系への影響で約4 µg/kg体重/日、生殖・発生への影響で約10、肺がんで4.1〜4.9、膀胱がんで5.0〜12.1 µg/kg体重/日です。

ここで「BMDLまで10倍あるから安全」と書きたくなりますが、それは正しい読み方ではありません。BMDLは「これ以下なら安全」という許容量ではなく、影響が観察され始める用量の推定値の信頼下限にすぎません。無機ヒ素は遺伝毒性のある発がん物質として、明確な閾値を置かずに扱われるのが一般的です。

しかも、物差しはひとつではありません。米国EPAは2025年1月、無機ヒ素の経口参照用量(RfD)を0.06 µg/kg体重/日としました。2型糖尿病(0.058)と虚血性心疾患(0.057)の疫学データを用量反応メタ解析にかけて導いた値です。この物差しを当てると、日本人の平均摂取量0.315 µg/kg体重/日はすでにそれを上回ります。

不都合な数字なので、隠さずに書きます。ただし「日本人は米国の安全基準の5倍を摂っているから危険」とも書けません。食品安全委員会の2013年評価とEPAの2025年評価では、採用した健康影響も、対象とした疫学研究も、解析手法も違うからです。同じ物差しで測った数字を比べているのではありません。

食品安全委員会自身の結論はこうです。「日本において、食品を通じて摂取したヒ素による明らかな健康影響は認められておらず」、ただし「一部の集団で無機ヒ素の摂取量が多い可能性があることから、特定の食品に偏らずバランスのよい食生活を心がけることが重要」。

私はこの言い方が、いちばん現実に合っていると思います。玄米そのものが危険なのではなく、「玄米も、ヒジキも、ごはんの量も多い」が重なったときだけ数字が寄る。そして寄っているかどうかは、玄米だけを見ていてもわかりません。

2025年の米国の報告をどう読むか

Xで玄米のヒ素が急に話題になったきっかけは、2025年5月に米国の非営利団体Healthy Babies Bright Futuresが出した報告書です。米国で購入した米製品145点と代替穀物66点、計211点を分析し、米からはすべて無機ヒ素が検出されたとしています。

ここで押さえておきたいのは、報告された濃度そのものは、日本の実測と桁が外れていないということです。同報告で米国産の値は白米95 ppb・玄米129 ppb。ppbをmg/kgに直すと白米0.095・玄米0.129 mg/kgで、日本の精米0.09・玄米0.12とほとんど同じ帯です。

では何が違うのか。どの健康影響を基準にリスクを判断するかです。同報告は、先ほどのEPAの新しい評価をはじめ、より低い健康ベース値を重視して長期の曝露を問題視しています。濃度の測り方ではなく、線の引き方が違う。

ですので「米国が騒ぎすぎ」でもなければ「日本も同じくらい危ない」でもありません。同じ濃度の米を、違う物差しで見ている。それが正確なところです。

炊き方で、無機ヒ素はどこまで減るのか

実用の話に移ります。Xでは「浸けたお水を捨てると玄米のヒ素は約60%除去されます」という数字がよく流れています。これは本当でしょうか。

もっとも参考になるのは、シェフィールド大学のMenonらが2021年に発表した実験です(Science of the Total Environment)。玄米3種・白米3種について、家庭で再現できる4つの炊き方を比較し、LC-ICP-MSでヒ素の形態別に測っています。

表4:処理・炊き方で、何がどれだけ減るか
方法 無機ヒ素 フィチン酸 手間
洗う(研ぐ)だけ 白米では低下。玄米では有意差なし ほとんど変わらない ほぼ無し
浸水してから吸水炊飯 白米では低下。玄米では有意差なし 30℃12時間+発芽24時間で−35.9% 一晩
浸水温度を上げる(50℃前後) フィターゼの活性が最大に。36時間では30℃より有意に低い 温度管理が要る
発芽させる 時間とともに4%→60%。48時間で−66% 1〜2日
ゆでこぼしてから炊く(PBA法) 玄米−54%/白米−73% 5分ゆでて湯を捨てる
大量の水で炊く(米1に対し水6〜10) 総ヒ素−30〜44% 白米では鉄が最大70%、ビタミンが約50%失われる

PBA法(parboiled and absorbed)というのは、沸かしたお湯で米を5分ゆでて、その湯を捨て、新しい水を入れて水分を吸わせながら炊く、という方法です。これで玄米の無機ヒ素は54%、白米は73%減りました。曝露マージンは白米で3.7倍、玄米で2.2倍に改善しています。

そして重要なのが、洗浄と浸漬だけでは、白米では有意に減ったのに玄米では有意差が出なかったことです。ぬか層がある玄米では、水に触れる時間を延ばすだけでは中まで抜けてこない、ということでしょう。

ですから、Xで流れている「玄米を浸して水を捨てるだけで約60%減る」という数字は、少なくともこの試験の玄米のデータからは支持されません。

ただし言い過ぎないように付け加えます。「玄米は浸水してもヒ素は減らない」と一般化するのも行き過ぎです。この試験で使われたのはタイ産玄米・玄米バスマティなど英国で流通している長粒種で、日本の短粒種を日本の水と炊飯器で炊いた場合を直接調べたものではありません。著者自身、地域ごとの米や水質を含めた追加研究が必要だと述べています。「この試験の玄米では、浸漬による有意な低減は確認されなかった」——ここまでが言えることです。

そのうえで、栄養の面では良い知らせもあります。同じ研究で、亜鉛は玄米・白米とも有意な損失がありませんでした。玄米は白米より栄養素の損失が小さく、ぬかが守っている形です。大量の水で炊く方法(1対6〜10)だと総ヒ素は減りますが、白米では鉄が最大70%、ビタミンが平均50%失われるという報告があり、ヒ素と一緒に栄養も捨てることになります。

アブシジン酸——「ミトコンドリア毒」は裏付けられているか

ここからは、玄米そのものに含まれる成分の話です。

アブシジン酸(ABA)は植物ホルモンの一種で、種子の休眠、発芽の抑制、気孔の閉鎖などを担っています。玄米だけの成分ではなく、リンゴ・オレンジ・メロン・キウイ・トマトなど、ふつうに食べている果物や野菜にも広く含まれています。

「アブシジン酸はミトコンドリア毒だ」という説の出どころは、培養細胞に極めて高い濃度のアブシジン酸を加えたときにミトコンドリアの機能障害が起きた、という試験管内の実験だと考えられています。食事から入る量で体内が同じ濃度になることは、現実的にはありません。

公的な評価も出ています。米国環境保護庁(EPA)は、植物成長調整剤として使われるアブシジン酸について「幼児や子どもを含めた消費者に危害が生じる可能性はない」と結論し、遺伝毒性も認めていません。日本の食品安全委員会も2021年11月に安全性についての情報を公表しています。

「植物だけの毒」という説明と、ヒトでわかっていることは合わない

ここが、5年前の私が書けなかった部分です。

アブシジン酸は、ヒトの体でもシグナル分子としてはたらいていることがわかっています。

  • Bruzzoneら(PNAS 2007;104(14):5759-64):活性化したヒトの顆粒球がアブシジン酸を産生・放出することを示しました。細胞内のセカンドメッセンジャーはサイクリックADPリボースです
  • Bruzzoneら(J Biol Chem 2008):ヒトの膵島でも、高いブドウ糖刺激によってアブシジン酸が産生・放出され、インスリン分泌のシグナルに関与することを報告しました
  • Magnoneら(FASEB J 2015):果実抽出物に含まれるマイクログラム量のアブシジン酸を投与したところ、ラットとヒトで糖負荷後の血糖・インスリン血症がむしろ改善したと報告しています

つまり「植物特有の猛毒がヒトのミトコンドリアを破壊する」という説明は、ヒトで確認されているアブシジン酸の生理作用とかみ合いません。体が自分で出している分子を、玄米ひと粒ぶんの量で毒と呼ぶのは無理があります。

ただし、ここで論理を飛ばさないでください。「ヒトの体もつくっているから、食べても安全だ」とは言えません。鉄も銅もヒトの体が使う元素ですが、量が過ぎれば有害です。上に挙げたMagnone 2015も小規模な生理学的研究で、玄米のアブシジン酸を長期間摂った場合を調べた試験ではありません。

正確に書くと、こうなります。通常の玄米摂取でヒトにミトコンドリア毒性が生じることを示した臨床的な根拠は確認できません。一方で、玄米中のアブシジン酸を長期に摂り続けた場合の安全性が積極的に証明されたわけでもありません。いま手元にある材料で言えるのは、ここまでです。

5年前の私は「アブシジン酸は問題ない」と結論だけ書きました。結論の向きは変えませんが、根拠の出どころと、言えることの範囲を書き直します。

フィチン酸——ミネラルの吸収との関係

フィチン酸(イノシトール六リン酸)は、植物が種子にリンを貯蔵する形です。玄米に限らず、豆類・ナッツ・全粒穀物に広く含まれています。

「ミネラルを排出する」と言われますが、正確には消化管のなかで鉄・亜鉛・カルシウム・マグネシウムと結合し、吸収できる形を減らすのがはたらきです。体に入ったミネラルを追い出しているのではなく、入る前の段階で捕まえている。細胞側の取り込み能力そのものを壊すわけではありません。

そして、効くかどうかは量で決まります。国際亜鉛栄養コンサルタントグループ(IZiNCG)やWHOは、フィチン酸と亜鉛のモル比で食事を分類しています。

表5:フィチン酸/亜鉛のモル比と、亜鉛の吸収率の目安
モル比 どんな食事か 亜鉛の吸収率の目安
5未満 精製穀物が中心で、肉・魚・卵が多い 30〜50%
5〜15 動物性食品と植物性食品の混合食 20〜30%
15超 未精製穀物・豆が中心で、動物性食品がほとんど無い 10〜15%

実際、モル比15を超える食事は15以下の食事に比べ、亜鉛の吸収率が絶対値で0.14(対照のおよそ45%)低下したとするメタ解析があります。ほぼ半減です。「フィチン酸は関係ない」と言い切ることはできません。

ただし、ここで言えるのは「フィチン酸による亜鉛吸収の低下は、玄米を食べたかどうかだけでは決まらない」ということです。決めているのは食事全体のフィチン酸量と亜鉛量の比であって、玄米という単一の食品ではありません。玄米1食品だけを見て亜鉛欠乏になると判断することはできない——これが誠実な書き方です。

(私は当初ここに「肉や魚を食べる日本の献立なら問題にならない」と書こうとしました。しかし日本人の通常の食事のモル比を実測したデータを私は持っていません。データのない断定なので取り下げます。)

浸水と発芽で、フィチン酸は確かに減る

フィチン酸は、無機ヒ素と違って浸水と発芽がよく効きます。種子が発芽の準備を始めると、フィターゼという酵素が動いてフィチン酸を分解するからです。

  • 30℃の水に12時間浸し、24時間発芽させた玄米でフィチン酸−35.9%
  • 発芽時間を延ばすと低減は4%から60%まで進み、48時間では−66%という報告もあります
  • フィターゼの活性は50℃前後で最大になり、36時間浸漬では50℃のほうが30℃より有意に低い値になりました

ここから読み取れる実務的な話がひとつあります。「夏は12時間、冬は24時間」という経験則は、方向としては正しい。気温が高いほうが短い時間で済む、というのは、効いているのが時間だけでなく温度だからです。冷蔵庫で一晩というやり方は、手間のわりに減りが小さいことになります。

フィチン酸には、利益を示唆する研究もある

片面だけ書くのはフェアではないので、逆側も置いておきます。

フィチン酸には、腸のなかで金属イオンと結合することでフリーラジカルの生成を抑える、カルシウム塩の結晶化を妨げて腎結石や血管の石灰化を抑える方向にはたらく、大腸がん細胞の増殖を抑える——といった報告があります。

ただしこれらの多くは細胞や動物、あるいは機序の研究で、ヒトでの臨床試験は限られています。「フィチン酸は体にいい」と言い切れる段階ではありません。利益を示唆する基礎研究もある、というところまでです。

残留農薬——玄米は「残る側」。ただし年代に注意

「農薬は果皮に溜まるから、それを取っていない玄米は危険だ」という言い方があります。前半は事実です。

坂真智子らの研究(食品衛生学雑誌 2008;49(3):141)では、精米工程で、玄米に残っていた農薬の40〜106%が糠とともに除去され、白米に残るのは10〜65%の範囲だったと報告されています。農薬の種類によって挙動の幅がかなり大きいことも、同じ論文が示しています。玄米は白米より農薬が残る側です。ここは認めなければいけません。

では、その出発点の量はどれくらいか。愛知県衛生研究所が平成4〜13年度の10年間に調べた市販玄米約150検体では、18種類(延べ107農薬)が検出されましたが、食品衛生法の基準値を超えたものはなく、濃度は0.001〜0.05 ppm程度、基準値に対する割合は平均7%・中央値3%でした。

ここで正直に書いておきます。これは1990年代から2000年代初頭にかけての調査です。使われる農薬も基準値の体系も当時とは変わっているので、「いま売られている玄米は基準値の平均7%です」と現在形で書くことはできません。その時代に調べた市販玄米では、基準値のごく一部だった——という言い方が限界です。

また、残留基準値は農薬ごとに個別に決められた行政上の基準で、「基準値以下=健康影響がゼロ」と等号で結べるものでもありません。

そのうえで実務的には、農薬が気になるなら有機栽培・特別栽培の玄米を選ぶのは筋の通った選択です。数値を下げる手段としてはっきりしています。ただし次の節に書くとおり、それでヒ素まで下がるわけではありません。

発芽玄米・無農薬・ロウカット玄米なら、変わるのか

ここが実際にいちばん聞かれるところです。

発芽玄米。わずかに発芽させた玄米で、フィチン酸については上で見たとおり確かに減ります。GABAが増えることでも知られています。ただし発芽で無機ヒ素まで減るとは限りません。ヒ素はぬか層に取り込まれた元素であって、酵素で分解される成分ではないからです。「発芽玄米だからヒ素も安心」とは言えません。

酵素玄米(寝かせ玄米)。小豆と塩を入れて炊き、数日保温するやり方です。作り方の名前であって、成分がどう変わるかを測った公的なデータは見あたりません。「毒が消える」という言い方はできません。長時間の保温は衛生面の管理が要ることも書き添えておきます。

ロウカット玄米。玄米の表面のロウ層を削って水を通りやすくした加工玄米です。浸水なしで白米と同じように炊けるのが売りで、「浸水が面倒でやめてしまう」という最大の挫折要因への答えになります。ただし削っているのはロウ層で、無機ヒ素の低減をうたう製品ではありません。製品ごとの仕様を見てください。

無農薬・有機玄米。残留農薬を減らす手段としては合理的です。しかし無機ヒ素は農薬ではなく、土壌や水にもともとある元素をイネが吸い上げたものです。栽培方法を有機に変えても、ヒ素が減る理由はありません。「無農薬=ヒ素も少ない」ではない——ここは混同されやすいので、はっきり書いておきます。

妊娠中の方と、子どもの場合

感受性の高い時期については、慎重な言い方をします。

EUが乳幼児向け食品の製造用米に0.10 mg/kgというひときわ低い基準を置いていること、EPAの新しい評価でも胎児期・乳児期の影響が別に検討されていること、米国の報告書も妊娠期と乳幼児期を感受性の高い時期として扱っていることは、事実として押さえておく価値があります。

ただし「子どもに玄米を食べさせてはいけない」ということではありません。体重あたりの食事量が多いぶん、同じ食品に偏ったときの影響が大人より出やすい、という一般則の話です。玄米だけ、あるいは特定の穀物だけに寄せず、白米やほかの穀物も混ぜて分散させる。リスク管理としてはこれで十分に筋が通ります。

【受診・相談をすすめる目安】
炎症性腸疾患などで低残渣食の指示を受けている方、腹痛や血便が続く方、妊娠中・授乳中で食事の内容に不安がある方は、この記事の内容よりも主治医・管理栄養士の指示を優先してください。乳幼児の主食を変えるときも同様です。

玄米が合わない人がいるのは、本当です

成分の話とは別に、現実に多いのがこちらです。

Xで「玄米をやめた」と書いている人の理由を集めると、多い順に①お腹の不調(下痢・ゆるくなる・腹痛)②消化が重い・胃もたれ③便秘でした。「咀嚼が足りなくてちゃんと消化できていなかったかも」「腸が過敏になってお腹を壊しやすくなったから2か月でやめた」といった書き込みが目立ちます。

玄米は不溶性の食物繊維が多く、外側の層が物理的に硬いので、急に切り替えると腹部の張り・ガス・便通の変化が出やすいのは無理のないことです。「毒のせい」ではなく、量と切り替え方の問題であることがほとんどです。

打つ手は4つあります。

  • 白米に混ぜて、割合を少しずつ上げる。いきなり全部を玄米にしない。これが最も効きます
  • よく噛む。物理的に砕けていない玄米は、そのまま出てきます
  • 十分に浸水する。加圧して炊く。硬さそのものが減ります
  • 発芽玄米・ロウカット玄米に替える。柔らかく炊けるうえ、浸水の手間も減ります

ちなみに、Xでよく見る「玄米にすると眠くなる」はほとんど見あたらず、むしろ「玄米にしてから午後の眠気が減った」という書き込みのほうが目立ちました。これは主観の集まりなので根拠にはしませんが、不調の話ばかりではないという意味で添えておきます。

それでも合わない場合、無理に続ける理由はありません。玄米は目的ではなく手段です。

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そもそも、玄米に替える見返りはあるのか

リスクの話だけして終わると片手落ちなので、逆側も置きます。ここは玄米ダイエットの効果を検証した記事で詳しく書いているので、要点だけにします。

白米と玄米を比べたランダム化比較試験をまとめたメタ解析では、こう報告されています。

  • 前糖尿病・2型糖尿病を対象にした7試験417人:HbA1cにも空腹時血糖にも有意差は出ませんでした(p=0.15/p=0.95)。一方で体重は−2.2 kg(95%信頼区間 −3.13〜−1.26)、HDLコレステロールは上昇
  • 成人全般:体重−1.63 kg、BMI−0.58 kg/m²、腹囲−2.56 cm

ただし、この数字をそのまま「玄米にすれば1.6〜2.2kg痩せる」と受け取ってはいけません。研究間のばらつきが非常に大きく(体重のI²は97%)、エビデンスの確実性は低〜非常に低いと評価されています。言えるのは「白米と比べたとき、体重や腹囲は小さくなる方向だった。ただし研究ごとの差が大きい」まで。

それでも、方向としては覚えておく価値があります。玄米の値打ちは「血糖が下がる」側ではなく「体重・腹囲が減る」側にありそうだ——ここは、玄米に期待するポイントを間違えないために重要です。血糖が心配で玄米に替えた方は、検査値がいつ・どれだけ動くのかのほうも合わせて見てください。

また、玄米だけを長期間・大量に食べ続けるやり方(7号食のような食べ方)は、ここまで書いてきた話とは条件が変わります。特定の食品に寄せるほど、寄せた食品の影響がそのまま出るからです。

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よくある質問

Q. 玄米に毒があるというのは、嘘なのですか?
A. 「猛毒が入っている」という言い方は支持できません。ただし「まったく何も入っていない」でもありません。無機ヒ素は玄米のほうが白米より多く、国際的にも玄米だけ別の基準値が置かれています。嘘か本当かではなく、量の問題として見るのが正しいと考えています。

Q. アブシジン酸はミトコンドリアを傷つけると聞きました。
A. その説の出どころは、培養細胞に極めて高い濃度を加えた試験管内の実験だと考えられています。通常の玄米摂取でヒトにミトコンドリア毒性が生じることを示した臨床的な根拠は確認できません。むしろアブシジン酸は、ヒトの顆粒球や膵島も産生しているシグナル分子であることが報告されています。

Q. フィチン酸でミネラルが排出されて、貧血になりませんか?
A. フィチン酸は体内のミネラルを排出するのではなく、消化管で結合して吸収を妨げます。効くかどうかは食事全体のフィチン酸量とミネラル量の比で決まるため、玄米という単一の食品だけを見て判断することはできません。健診で貧血を指摘されている方は、食事の推測より血液検査の実測を優先してください。

Q. 日本の玄米はヒ素が多いのですか。外国産のほうが安全ですか?
A. 2025年に米国で報告された値(白米0.095・玄米0.129 mg/kg)と、日本の実測(精米0.09・玄米0.12 mg/kg)はほぼ同じ帯でした。産地を変えれば下がるという単純な話ではありません。コメは水を張って育てる作物なので、世界的に同じ課題を抱えています。

Q. 浸水は何時間すればいいですか。水は捨てたほうがいいですか?
A. 目的で変わります。フィチン酸を減らしたいなら浸水と発芽が効きます(30℃12時間+発芽24時間で−35.9%、時間と温度を上げるほど進む)。無機ヒ素を減らしたいなら、浸けるだけでは足りません。玄米では、5分ゆでて湯を捨ててから炊く方法で−54%という報告があります。ただし毎食続けられるかは別問題なので、続く方法を選んでください。

Q. 無農薬の玄米を選んだほうがいいですか?
A. 残留農薬を減らす手段としては合理的です。ただし無機ヒ素は農薬ではなく、土壌や水由来の元素です。無農薬にしてもヒ素が減る理由はありません。目的を取り違えないでください。

Q. 玄米にしてからお腹がゆるくなりました。やめたほうがいいですか?
A. まず白米に混ぜる割合を下げて、よく噛むことから試してください。それで戻るなら、量と切り替え方の問題です。腹痛や血便が続く場合、あるいは腸の病気で食事指示を受けている場合は、自己判断せず主治医に相談してください。

まとめ

この記事の結論(再掲)

  • アブシジン酸:通常の摂取でヒトに毒性が生じるという臨床的根拠は確認できません。ヒトの体自身も産生している分子です
  • フィチン酸:吸収を妨げるのは事実。ただし食事全体の比で決まり、玄米単独では判断できません。浸水と発芽で減らせます
  • 無機ヒ素:玄米は白米の1.3〜1.6倍。4つのなかで唯一、行政が濃度基準を置いている論点です。減らしたければ、浸すのではなくゆでこぼす
  • 残留農薬:玄米のほうが残ります。調査された実測は基準値のごく一部でしたが、それは1990〜2000年代初頭のデータです

そして、いちばん大事なところをもう一度。「危険」か「安全」かを一言で決めようとしないでください。同じ0.12 mg/kgという数字が、日本の2013年の評価と米国の2025年の評価では違って見えます。物差しが違うからです。それを隠して片方だけ書く記事は、どちら向きであっても読者の役に立ちません。

実務としてやることは、たぶん3つだけです。

  • 玄米だけに寄せない。白米や他の穀物と混ぜる。これがいちばん効きます(主食の量そのものを決めたい方はこちら
  • ヒジキと重ならないか見ておく。日本人の無機ヒ素は、コメとヒジキでほぼ決まります
  • 続かない方法を選ばない。ゆでこぼしが続かないなら、白米と半々のほうが結果的に下がります

5年前の私は、2つの成分を否定して終わりにしました。いま同じ質問をされたら、「4つ全部を同じ物差しに載せてから決めましょう」と答えます。

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参考文献

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  3. 農林水産省「食品中のヒ素に関するQ&A」/「コメ中ヒ素の低減対策の確立に向けた手引き」 maff.go.jp
  4. 食品安全委員会「第8回 無機ヒ素の健康影響は?」/汚染物質評価書「ヒ素」(2013年) fsc.go.jp
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  21. 松永和紀「コメのヒ素のリスクについて(前編)米国におけるヒ素検出報道を検証する」FOOCOM.NET foocom.net

この記事を書いた人

臨床ブロガー 臨床検査技師/18年・88kg→65kg

検査値を通して人の体を見てきました。論文を確認し、自分の実測とは分けて書いています。医師・管理栄養士ではなく、診断・治療・服薬の判断は行いません。

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この記事を書いた人

臨床検査技師。専門は生化学検査。健診センターのデータ業務、治験コーディネーター(CRC)、総合病院、公立病院の経営推進課を経て、現在はWEBマーケティングが本業。自身が20回のダイエット失敗のあと88kgから65kgへ。論文を読んで気になったものを自分の体で試し、体重・腹囲・血液検査・体組成という数値で確かめた記録を書いています。効くものは効くと、効かないものは効かないと書きます。広告主から記事内容の指定を受けることはありません。

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