肋骨を締めるコルセットって、本当に肋骨が締まるんですか?
着けている間は細くなります。ただし外したあとも骨の形が変わったままになると示した研究は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。
先に、この記事のいちばん大事なところだけ書きます。
・「締まった」という言葉が、まったく違う3つのことを指しています。着けている間/外したあと/骨格そのもの、の3つです
・着けている間に細くなることは、押しているのだから起きて当然です。ここを否定する記事ではありません
・「2〜3か月で肋骨に形を記憶させる」を裏づける研究は、確認できませんでした。ないと証明されたわけではなく、確かめられていないということです
この記事を書いている私は臨床検査技師です。整形外科の専門家でもコルセットの専門家でもありません。なので、この記事では「研究で確かめられていること」「推進している人が言っていること」「SNSで言われていること」を、そのつど分けて書きます。出どころの違うものを混ぜて「だからこの方法はこうだ」と言い切るのが、この手の記事でいちばん多い間違いだと思っているからです。
2021年に書いたこの記事の初版では、私は「肋骨を締めると呼吸が浅くなって代謝が悪くなり、太りやすい体質になる」「毛細血管が潰れてむくみやすいカラダになる」と書いていました。どちらも取り下げます。出典を示せませんでしたし、いま調べ直しても裏づけが見つかりませんでした。否定する側に都合のいい話も、同じ基準で落とします。それをしないと、この記事は「結論ありき」になってしまいます。
この記事でわかること
・「肋骨が締まる」を3段階に分けると、どこまでが確かめられているのか
・「1週間で数センチ」「1回の施術で締まった」は、何を測っているのか
・臨床検査技師が、ウエストの数値を聞いたときにまず疑うこと
・体に悪いのか。どのリスクが、何人を対象にどう確かめられたのか
・何時間・何か月つければいいのか(結論:決まっていません)
※本記事にはアフィリエイト広告を含みます。
結論|「成人の肋骨が恒久的に締まる」と示した根拠は確認できませんでした
着けている間は締まりますが、外したあとも骨の形が残ると示した研究は見つかりませんでした。
結論から書きます。成人が市販のコルセットやベルト、タオルで肋骨まわりを締めることで、外したあとも残る骨格の変化が起きると示した臨床研究を、今回調べた範囲では見つけられませんでした。
ここで一度、言葉を厳密にしておきます。「見つからなかった」は「効果がないことが証明された」ではありません。調べられていない、というだけです。この記事は効果を否定する記事ではなく、何が測れていて何がまだ測れていないのかを分ける記事です。
そして「見た目が変わる」ことまで否定するつもりはありません。締めれば細くなります。それは布と樹脂で外から押しているのだから、当たり前に起きます。問題は、その当たり前に起きることが「骨が変わった証拠」として語られているところです。
| 言っていること | それは、どこで確かめられたことか | |
|---|---|---|
| 推進している側 | タオルで1日2回。1週後にウエストが数センチ縮み、2〜3か月で肋骨が形を記憶する | 雑誌記事と、医師個人の臨床経験・体験。この効果を成人で画像計測した研究は確認できませんでした |
| SNSの肯定側 | 「半年使って肋骨が閉じてくびれができた」「矯正1回でくびれ爆誕」 | 個人の体験談。cm単位の数値を出している投稿はほとんどなく、ほぼ全部が見た目の報告です |
| SNSの否定側 | 「強く押せば一時的に場所は変わる。すぐ戻る」「締め上げても肋骨まで縮まない」 | これも個人の体験談です。「すぐ戻る」を測ったデータも、同じく見当たりません |
| 研究で分かっていること | 歴史的に何年も強く締めた遺骨には、長期の圧と整合する肋骨・椎骨の形態が報告されている | 遺骨7体の予備的な形態観察(Gibson 2015)。現代の成人が数時間着ける話に、そのまま当てはめることはできません |
| この記事の結論 | 段階1(着用中に細く見える)は起きます。段階2(外したあとの維持)と段階3(骨格の恒久変化)は、確かめたデータが見つかりませんでした。 | |
「肋骨が締まる」は、3種類に分けて考えてください
この話がややこしいのは、まったく違う3つのことが「締まった」という同じ言葉で呼ばれているからです。まずここを分けます。
分けてしまえば、SNSでずっと続いている言い争いの正体も見えてきます。「見た目が変わった」と言っている人は段階1か2の話をしていて、「すぐ戻る」と言っている人は段階2の話をしていて、「肋骨が閉じた」と言っている人は段階3のつもりで言っています。だから噛み合いません。
そして、この3つは両立し得ます。「着けている間は細くなった」と「外したら戻った」は、まったく矛盾しません。どちらか一方だけを取り上げて「効く」「効かない」と言うから、話が食い違うのだと思います。
なぜ肋骨は動くのに、「形を記憶する」とは言えないのか
動いているのは関節であって、骨そのものの形が変わっているわけではないからです。
推進する側の説明はだいたい共通していて、「肋骨は呼吸で動く骨だから、外から圧をかければ締まる」という筋道です。前半は正しいです。問題は後半です。
呼吸で肋骨は動く。でも「動く」と「形が変わる」は別の話
肋骨が動くのは本当です。ただし動いているのは関節で、骨の形が変わっているわけではありません。
肋骨が動くのは事実です。息を吸えば横隔膜が下がり、肋骨は持ち上がって広がります。呼吸のたびに、胸郭は毎分十数回それをくり返しています。
ただし動いているのは関節の可動であって、骨そのものの形が変わっているわけではありません。肘が曲がることと、上腕骨が曲がることが別の話なのと同じです。「動く骨だから締まる」という説明は、この2つを橋渡しする部分が抜けています。
もう一つ。呼吸で動くということは、外からの力に対しても逃げる方向に動けるということでもあります。押されたぶん動いて、力がなくなれば戻る。それが関節の性質です。「動くから締まったまま固定される」とは、そのままでは言えません。
大人の胸郭も動きます。ただし、肋軟骨の性質は年齢で変わります
肋骨は前のほうで、肋軟骨という軟骨を挟んで胸骨につながっています。この軟骨があるおかげで胸郭はしなります。
この肋軟骨は、30代あたりから石灰化が始まり、加齢とともに増えていくことがCTの研究で示されています(Holcombe SA, et al. IRCOBI 2017/成人205名のCT)。石灰化が進むほど硬さは増し、石灰化の体積比を0%から24%へ増やした有限要素モデル(5検体)では、肋軟骨の構造的な剛性が2.3〜3.8倍になったと報告されています(Forman JL, Kent RW. 2014)。
ここは慎重に書きます。これは「だから大人の肋骨は締まらない」の証明ではありません。取り出した肋軟骨の曲げ試験とモデル計算の話であって、コルセットを着けた人を測ったものではないからです。言えるのは「成人の胸郭のしなりやすさは一定ではなく、年齢によって力学的な条件が変わる」というところまでです。
逆向きの読み方(硬いのだから折れやすい、など)も、この研究からは言えません。外から強くぶつかったときの力学と、衣類でじわじわ押し続ける力は別物です。都合のいい方向にも、怖い方向にも、この数字を引っぱらないでおきます。
歴史的な遺骨には、長期のコルセット圧と整合する所見が報告されています
「コルセットで骨が変形する」の根拠としてよく引かれるのが、19世紀までのヨーロッパの遺骨の研究です。
博物館所蔵の女性の遺骨7体を調べた予備的な形態観察では、肋骨がS字状に変形し、椎骨の棘突起が垂直からずれていることが報告されています(Gibson R. NEXUS 2015)。くる病など他の原因による変形とは所見が一致せず、長期にわたる圧と整合する形態だと論じられています。なお同じ研究では、この人たちの寿命が短かったわけではないことも報告されています。
ただし、この研究の位置づけははっきりさせておきます。大学院生が運営する学術誌に載った、7体の予備的研究です。そしてこの7人が何歳から何年間コルセットを締めていたかを、前向きに確認した研究ではありません。歴史資料のコルセットと遺骨の形態を突き合わせて「整合する」と論じたものです。
だから、こう書くのが精いっぱいです。歴史的に、強い締め付けを長期間続けた集団では、骨格の変化と整合する所見が報告されている。しかしそこから、現代の成人が市販のベルトを1日数時間着けた場合にどうなるかを推定することはできません。
「1週間で数センチ」「1回で締まった」は、何を測っているのか
測っているのは、そのときのメジャーの数字です。肋骨の角度そのものを測った数字ではありません。
ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。
推進側の記事には「1週後にはウエストが数センチ縮むほどの即効性」と書かれています。SNSにも「1回の施術でくびれができた」「2回でかなり落ち着いた」という投稿が並びます。私はこれを「嘘だ」と言うつもりはありません。その人のメジャーは、たしかにその数字を指したのだと思います。
私が知りたいのは、その数字が何を測った数字なのかです。
| 締めた直後に変わりうるもの | この記事で確認できなかったもの |
|---|---|
| 皮下脂肪や腹部の内容物の位置(押せば移動します) | 外したあと、どのくらいの時間で、どこまで戻るのか 着用をやめたあとのウエスト周囲径やCT・X線を時系列で追いかけた研究を、今回は見つけられませんでした。 そして肋骨の角度そのものが恒久的に変わったことを、成人で画像計測した研究も確認できませんでした。 |
| その日のむくみ・お腹の張り具合 | |
| 姿勢(背中を伸ばすだけで、同じ人でも見え方は変わります) | |
| 服の乗り方・写真の角度・光の当たり方 | |
| 測っているときの呼吸の位相(吸ったところか、吐いたところか) |
臨床検査技師として、まず「測り方」を疑います
検査室では、数字が動いたときにまず疑うのは体ではなく測り方です。これは職業病のようなもので、たぶん一生抜けません。
「ウエストが2cm減った」と聞いたとき、私が確認したいのはこれだけあります。
・測った位置は同じか(へそ回りか、いちばん細いところか。1cm上下すれば数字は動きます)
・息を吸ったところか、吐いたところか
・食前か食後か(お腹の内容量は数時間で変わります)
・コルセットを外した直後か、時間をおいてからか
・メジャーの引っぱり具合は同じか(これがいちばん揃いません)
この5つが揃っていない2cmは、効果の証拠にはなりません。逆に言えば、この5つを揃えて記録している人がいたら、その人の数字は私は信じます。方法を否定しているのではなく、測り方が書かれていないことを問題にしています。
整体で1回で締まった・タオルで締まった場合も、考え方は同じです
道具や施術者が変わっても、施術直後の数字だけでは骨格が変わった証明にはなりません。
SNSでは「肋骨矯正1回で変わった」「タオル締めで肋骨が薄くなった」という投稿も多く、整体の施術は1回1.5万円前後という声もありました。
道具や施術者が変わっても、確かめ方は同じです。施術直後の周囲径や写真だけでは、骨格が変わったことの証明にはなりません。強く押せばその場では形が変わりますし、施術のあとは姿勢も呼吸も変わります。知りたいのは、翌週も翌月も同じ数字なのかです。
肋骨が「開いて見える」原因は、骨の形だけではありません
姿勢や息の吐ききり方、お腹まわりの筋肉の使い方でも、肋骨の下のふちの見え方は変わります。
「肋骨が開いている」という言い方をよく見ます。ただ、肋骨の下のふちが目立って見える状態は、骨の形そのものだけで決まっているわけではありません。姿勢や、息を吐ききれているかどうか、お腹まわりの筋肉の使い方でも見え方は変わります。
これを書いたのは、呼吸法や体操をすすめるためではありません。「見た目が変わった=骨格が変わった」とは限らないという一点のためです。締めて見た目が変わったときも、同じことが言えます。
体重・体脂肪が減る根拠は見つかりません
締めている間に細く見えることと、脂肪が減ることは別の話です。減る根拠は見つかりませんでした。
肋骨を締めることで体重や体脂肪が減る根拠は、見つかりませんでした。締めている間ウエストが細く見えることと、脂肪が減ることは別の話です。
痩せるかどうかの検証はこちらでやっています → コルセットダイエットは効果なし?!本当に痩せることは出来るのか?
私自身が着け続けた記録はこちら → コルセットダイエット【経過】どのくらい痩せることが出来た?
体に悪いのか|何が、何人を対象に、どう確かめられているのか
リスクによって確かめられ方がまるで違うので、まとめて「危険」とは言えません。分けて書きます。
「肋骨締める 体に悪い」で調べている人が多いので、ここも分けて書きます。ネットで並んでいる「リスク」は、確かめられ方がまったく違うものが混ざっています。
| 言われていること | どこで確かめられたか | この記事の扱い |
|---|---|---|
| 食後の逆流が増える | 逆流疾患のある14人の実験。腹部を50mmHgで締めた条件(Mitchell 2017) | すでに逆流がある人が食後に強く締めるのは避ける、の根拠としては直接的 |
| 呼吸が苦しくなる | 10人の学会抄録。FVC・SVCはほぼ不変、MVVのみ低下(Respiratory Care 2018) | 参考値として紹介。「肺活量が落ちる」とは言えません |
| 体幹が弱くなる・腹筋が落ちる | 35研究のシステマティックレビュー。腰仙椎装具で筋力低下を示す決定的証拠なし(Azadinia 2017) | 根拠は見つかりません。ただし美容用を直接調べたレビューではありません |
| 肋骨が折れる | 該当する疫学データを確認できませんでした | 「起きない」ではなく「頻度が分かっていない」と書きます |
| 内臓が押し上げられて変形する | 美容目的の使用で恒久的な変形・移動を示したデータを確認できませんでした | 同上。強く圧迫すれば影響し得ますが、一般化できません |
| 血栓ができる | 1症例の報告(脂肪吸引の数日後・喫煙と肥満あり/Ramcharan 2020) | 一般の使用者の頻度を示すものではありません |
| 代謝が落ちて太りやすくなる | 裏づけを確認できませんでした(初版で私が書いていた主張です) | 取り下げます |
呼吸:FVC・SVCはほぼ変わらず、MVVだけが下がりました
入る量を測るFVC・SVCはほぼ変わらず、全力で息をし続ける力を測るMVVだけが下がりました。
呼吸への影響で引かれることが多いのが、ウエストトレーナーを着けて呼吸機能を測った報告です。10名を対象にした学会抄録で、FVC(努力性肺活量)とSVC(緩徐肺活量)はほとんど変化せず、MVV(最大随意換気量)だけが77.3から68.8へ下がったと記載されています。
ここは検査の仕事をしている人間として、どうしても分けて書きたいところです。FVCとMVVは、測っているものが違います。FVCは一回めいっぱい吸って吐ききった量、MVVは12秒ほど全力で息をし続けたときの換気量です。つまり「入る量」は変わらず、「全力で動かし続ける力」が落ちたという読み方になります。これを「肺活量が落ちる」とまとめてしまうと、書いてあることと違います。
そのうえで、この数字は参考値として扱ってください。10人だけですし、査読論文ではなく学会抄録です。さらに原文はMVVの単位をL/sと表記していますが、MVVは通常1分あたりの換気量で表す指標なので、表記に疑問が残ります。数字をそのまま健康被害の根拠にできる質のものではありません。
ついでに書くと、「苦しい」と感じたら締めすぎだと判断して外すのに、論文は要りません。
食後の逆流:逆流疾患のある14人で観察されたこと
腹部を50mmHgで締めると、食後の逆流が2回から4回に増え、酸が流れ去る時間も延びました。
腹部を締めることと胃酸の逆流については、比較的しっかりした実験があります。逆流疾患のある患者14人を対象に、ウエイトリフティング用のベルトをカフ圧50mmHgで締めた条件と締めない条件を同じ人で比べたところ、食後の逆流イベントが2回から4回へ増え、酸が食道から流れ去るまでの時間が23.0秒から81.1秒へ延びたと報告されています(Mitchell DR, et al. 2017)。
限界もはっきりしています。対象は全員、食道炎やバレット食道のある人です。健康な人が同じことになるとは言えませんし、美容用のコルセットを測ったものでもありません。
それでも、もともと逆流のある人が、食後に強く締めるのを避ける根拠としては直接的です。SNSで多かった「ご飯いっぱい食べられなくて3日でやめた」「食後が辛い」という声とも、方向は合っています。
寝るときに着けたままでいいのかは、こちらで別に整理しています → コルセットは寝る時に外す?ダイエット用と腰痛用で違う判断を論文で解説
「肋骨が折れる」「内臓が押し上げられる」は、頻度が分かっていません
美容目的の使用でこれらが起きる頻度を示した研究は、今回調べた範囲では確認できませんでした。
ここは、否定しすぎないように気をつけて書きます。
「コルセットで肋骨が折れる」「内臓が押し上げられて変形する」という説明は、メディアや医師のコメントとしてよく出てきます。ただ、美容目的の一般的な使用で、肋骨骨折の発生率が上がることを示した研究は確認できませんでした。内臓についても、恒久的に変形・移動すると一般化できるデータは見つかりません。
大事なのは、「確認できなかった」は「起きない」ではないということです。頻度が分かっていないだけで、強く締め続ければ体の中の圧が上がるのは確かです。安全だという意味には読まないでください。
なお、きついコルセットに関連した重い合併症の報告が1件あります。腹部の脂肪吸引を数日前に受けた51歳の女性が、きついウエストトレーニングコルセットを着けたあとに下肢の血栓による急性の虚血を起こした症例です(Ramcharan A, et al. Cureus 2020)。ただし喫煙と肥満という背景があり、術後という特殊な条件です。1例の報告であって、一般の使用者の危険度を示すものではありません。手術のあとに使う場合は、記事ではなく執刀医の指示に従ってください。
危険性の総論はこちらでまとめています → コルセットダイエットは危険?論文でわかるリスクと限界
「代謝が落ちる」「体幹が弱くなる」も、根拠は見つかりません
否定側でよく言われる話ですが、どちらも裏づけとなる研究を示すことができませんでした。
否定側でよく言われる話も、同じ基準で見ます。
まず「締めると体幹が弱くなる・腹筋が落ちる」。腰仙椎装具と体幹の筋力・筋萎縮を扱った35研究のシステマティックレビューでも、筋力低下を起こすという決定的な証拠は得られていません(Azadinia F, et al. 2017)。ただしこれは腰痛用の装具のレビューで、美容用のコルセットを直接調べたものではありません。
次に「呼吸が浅くなって代謝が落ち、太りやすい体質になる」。これは初版で私が書いていたことです。呼吸の指標が一時的に変わることと、基礎代謝が落ちて長期的に太ることの間には、大きな飛躍があります。その飛躍を埋める研究を、私は示せませんでした。取り下げます。
「毛細血管が潰れてむくむ」も同じです。これも初版に書いていましたが、裏づけがありません。取り下げます。
こういうことを書くと記事としては弱く見えるのですが、否定したい方向の話だけ甘い基準で通すのは、推進側と同じことをしていると思うので、そこはやめておきます。
何時間・何か月つければいい? 安全域も期間も分かっていません
「肋骨締め コルセット 時間」で調べている人が一定数います。先に答えを書くと、数字はありません。
「2〜3か月で形を記憶する」を裏づけるデータは確認できません
成人で肋骨の角度や胸郭の形が恒久的に変わったと示した臨床研究は、確認できませんでした。
推進側でよく出てくる期間は「1週間で数センチ」「2〜3か月で形状記憶」です。ここまで書いてきたとおり、成人がタオルやコルセットを数週間から数か月使って、肋骨の角度や胸郭の形が恒久的に変わったことを示した臨床研究を、今回は確認できませんでした。
あわせて出てくる「骨芽細胞が若返りのホルモンを出す」「骨密度が上がる」といった説明についても、それが肋骨締めで起きると示した研究は確認できていません。
「1日◯時間まで」という医学的な上限も見つかりません
安全な上限時間の数字は、メーカーの案内にも研究にも見当たりませんでした。
安全な上限時間についても、決まった数字は見つかりませんでした。メーカーの案内も「24時間の連続着用はしない」「時間は徐々に延ばす」といった書き方で、数字は出していません。
Xで実際に書かれている着用時間もばらばらでした。「気がついた時につけて、しんどくなってきたら外す」「寝る時」「半日は余裕そう」「毎日」。共通の目安と呼べるものはありません。
なので、時間の数字ではなく、体の側の中止の合図に置き換えます。
・苦しいと感じたら外す
・痛いと感じたら外す(痛みは効いている合図ではありません)
・ご飯が普通に食べられないなら外す
・眠れない・寝ていて目が覚めるなら、寝るときは着けない
念のため書いておきますが、これは中止の合図であって、「症状がなければ安全」という意味ではありません。安全な上限は、そもそも確立していません。
商品名では「肋骨が変わるか」は判断できません
「この商品なら肋骨が変わる」と言える医学的な根拠は、どの商品についても確認できませんでした。
どの商品を選べばいいか、という質問にも先に答えておきます。「この商品なら肋骨が変わる」と言える医学的な根拠は、確認できませんでした。商品名では判断できません。
参考になるのは、加圧衣類の締め付けを実際に測った国内の試験です。国民生活センターが2011年に公表した「加圧を利用したスパッツの使い方に注意!」では、一段階小さいサイズを着たとき、姿勢を変えたとき、他の加圧製品と重ね着したときに衣服圧が上がることが実測されています。
ただしこの試験の対象は下半身用のスパッツで、肋骨用のコルセットの圧を測ったものではありません。なので「コルセットの圧が何倍になる」という話には使えません。ここから言えるのは「同じ商品でも、サイズ・姿勢・重ね着で実際にかかる圧はまるで変わる」ということだけです。
つまり、「この商品を1日◯時間」という指定に意味を持たせるのは、そもそも難しいということでもあります。同じ商品を同じ時間着けても、人によって、その日によって、かかっている圧が違うからです。
※以下は着圧衣類としての商品情報です。この記事は、この商品に「肋骨を締める」「骨格を変える」といった働きがあると推奨するものではありません。
この製品の付け方や、痛いときの確認手順はこちらに書きました → プリンセススリムの付け方|痛いときのサイズ・位置も実物で確認
使用をやめて、受診してほしいサイン
皮膚の色が変わる、しびれが出る、外したあとも痛みが残る。この3つが出たら使用をやめてください。
ここだけは、締め方の工夫の話ではありません。
・皮膚の色が変わる(赤黒くなる・白くなる)
・しびれ・灼熱感が出る
・赤み・発疹・かゆみが引かない
・外したあとも痛みや息苦しさが残る
・我慢しないと着けられないほどの痛みが続く
手術のあとにコルセットや圧迫着を使う場合は、この記事ではなく執刀医の指示に従ってください。また、妊娠中の方、逆流性食道炎などの持病がある方、糖尿病などで痛みや異常に気づきにくい状態にある方は、使用の前に医師に相談してください。
よくある質問
Q. 肋骨締めるコルセットで、本当に肋骨は締まりますか?
A. 着けている間は締まります。ただし外したあとも骨の形が変わったままになると示した研究は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。効果がないと証明されたわけではなく、確かめられていないという意味です。
Q. 「1週間でウエストが数センチ縮む」は本当ですか?
A. メジャーの数字が動くこと自体は起こり得ます。ただし測った位置、呼吸の位相、食前か食後か、外した直後かどうか、メジャーの引っぱり具合が揃っていないと、その数字は効果の証拠になりません。
Q. やめたら元に戻りますか?
A. 着用をやめたあとのウエスト周囲径やCT・X線を時系列で追いかけた研究を確認できませんでした。どの程度維持されるのかは、信頼できるデータがないというのが今の答えです。
Q. 肋骨締めは体に悪いですか?
A. リスクによって確かめられ方が違います。逆流疾患のある14人の実験では、腹部を締めると食後の逆流が増えました。呼吸については10人の学会抄録でMVVだけが低下しています。一方で「肋骨が折れる」「内臓が変形する」は、頻度を示すデータを確認できませんでした。
Q. 1日何時間までなら安全ですか?
A. 医学的な上限は見つかりませんでした。時間で決めるのではなく、苦しい・痛い・ご飯が食べられない・眠れないといった合図が出たら外してください。ただし症状がなければ安全という意味ではありません。
Q. 整体の肋骨矯正なら効果がありますか?
A. 施術直後の周囲径や写真だけでは、骨格が変わった証明にはなりません。翌週も翌月も同じ数字なのかを確かめる必要があります。考え方はコルセットの場合とまったく同じです。
Q. コルセットを着けると腹筋は落ちますか?
A. 腰仙椎装具と体幹筋力を扱った35研究のシステマティックレビューでも、筋力低下を起こすという決定的な証拠は得られていません。ただし美容用のコルセットを直接調べたレビューではありません。
まとめ
この記事でいちばん言いたかったのは、「効くか効かないか」ではなく「何が測れていて、何がまだ測れていないのか」という一点です。
・「締まった」は3段階に分かれます。着用中/外したあと/骨格の恒久変化
・着用中に細くなることは起きます。押しているのだから当然です
・外したあとの維持と、骨格の恒久変化を示した研究は確認できませんでした
・数字を見たら、まず測り方(位置・呼吸・食前食後・外した直後か・メジャーの張力)を確認してください
・安全な上限時間も、効果が出る期間も、決まっていません
初版で私が書いた「代謝が悪くなって太りやすい体質になる」「毛細血管が潰れてむくむ」は、いずれも裏づけを示せませんでした。取り下げます。分からないことを分からないと書けるのが、個人でやっているブログの唯一の強みだと思っています。
参考文献
この記事で引用した資料は次のとおりです。対象と規模は、本文のなかにも書き添えています。
- Gibson R. Effects of Long Term Corseting on the Female Skeleton: A Preliminary Morphological Examination. NEXUS: The Canadian Student Journal of Anthropology. 2015;23. McMaster University Libraries
- Holcombe SA, Wang SC, Grotberg JB. Modeling female and male rib geometry with logarithmic spirals/Calcification of Costal Cartilage in the Adult Rib Cage. IRCOBI Conference Proceedings. 2017. IRCOBI(PDF)
- Forman JL, Kent RW. The effect of calcification on the structural mechanics of the costal cartilage. Comput Methods Biomech Biomed Engin. 2014;17(2):94-107. PubMed
- The Effect of Waist Trainers on Breathing. Respiratory Care. 2018;63(Suppl 10)(学会抄録). Respiratory Care
- Mitchell DR, Derakhshan MH, Wirz AA, Ballantyne SA, McColl KEL. Abdominal Compression by Waist Belt Aggravates Gastroesophageal Reflux, Primarily by Impairing Esophageal Clearance. Gastroenterology. 2017;152(8):1881-1888. PubMed
- Azadinia F, Ebrahimi Takamjani E, Kamyab M, Parnianpour M, Cholewicki J, Maroufi N. Can lumbosacral orthoses cause trunk muscle weakness? A systematic review of literature. Spine J. 2017;17(4):589-602. PubMed
- Ramcharan A, Marcano D, Rivera K, et al. Waist Training Corset: An Unusual Cause of Acute Lower Limb Ischemia. Cureus. 2020;12(9):e10465. Cureus
- 独立行政法人国民生活センター「加圧を利用したスパッツの使い方に注意!」報道発表資料. 2011年4月8日. 報道発表資料(PDF)

