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4つのプランの栄養基準と、実際にいくらかかるのか。継続割の解約条件と、向いていない人の条件まで、公式に出ている数字だけで並べました。

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グラスフェッドバターは体に悪い?効果とLDLへの影響を論文13本で検証

グラスフェッドバターと普通のバターを皿に並べた写真

「グラスフェッドバターは体に悪いのか」を左右しているのは、牛が草を食べたかどうかではありません。あなたが1日に何グラム使うかです。

市販バター54点を実測した研究では、グラスフェッドバターと普通のバターの脂肪酸の差は、期待されているほど大きくありませんでした。CLAは平均1.44倍、オメガ3(α-リノレン酸)は平均1.26倍。この平均値をバター10gに当てはめて試算すると、オメガ3の差は約9mgにしかなりません(Pustjens, Foods 2017)。

一方で、バターを1日50g、4週間とった比較試験では、バター群のLDLコレステロールの変化量が、オリーブ油群より0.38 mmol/L(約15mg/dL)大きくなりました(Khaw, BMJ Open 2018)。ここで効いているのは草かどうかではなく、乳脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸の量です。グラスフェッドバターも、飽和脂肪酸が多いバターであることに変わりはありません。

先に結論を書いておきます。

結論(先出し)

  • グラスフェッドバターが普通のバターより特別に体に悪いことを示した研究は見当たりません
  • 同時に、「普通のバターより体にいい」も現時点では示せていません。平均含有率の差は1.3〜1.4倍で、1回に使う量に直すと差は小さくなります
  • グラスフェッドかどうかにかかわらず、バターは飽和脂肪酸を多く含む食品です。健康影響を考えるときは種類より食事全体の量を見ます
  • 「体に悪い」が数字に出るとすれば、多くはLDLコレステロールです。これは種類ではなく量に反応します
  • CLAによる減量効果を、バターの量で期待することはできません。試験で使われた量に届くには1日約500g必要になります
  • 「効果」は、成分の差までなら確認できます。体重・LDL・心血管の結果でグラスフェッドの優位を示した試験は、今回の資料では見つかりませんでした
  • 気にするべき側かどうかは、リスク層で変わります。飽和脂肪酸を減らす意味が数字として大きくなるのは、心血管疾患の既往がある人や危険因子が重なっている人でした(Steen, Ann Intern Med 2026)
  • バターコーヒーのLDLは、バターだけの話ではありません。濾していないコーヒーにはLDLを上げるカフェストールが入ります。淹れ方でも変わります(Orrje, Nutr Metab Cardiovasc Dis 2025)

この記事では、臨床検査技師として日々LDLや中性脂肪の数値を見ている立場から、論文13本と国の基準の数字を挙げて、どこまでが確認できてどこからが確認できていないのかを整理します。2021年に書いた元の記事では「全く悪くありません」と締めていましたが、その根拠が薄かったため全面的に書き直しました。

この記事でわかること

  • グラスフェッドバターと普通のバターの成分差が、実測で何倍・何mgなのか
  • SNSでよく見る「CLAが5倍」「オメガ3が圧倒的」がどこまで確認できるのか
  • 意外だが天然由来のトランス脂肪酸はグラスフェッドの方が多かったという実測結果
  • 期待されている「効果」を1つずつ、確認できる/できないで判定した表
  • LDLコレステロールについて介入試験がどこまで示しているのか(何mg/dLなのか)
  • バターコーヒーでLDLが49%上昇した症例報告の中身と、その読み方の注意点
  • バターそのものと死亡・心血管疾患の関連を調べた636,151人のデータ
  • いちばん差がつくのは「減らす」ではなく「何に置き換えるか」だという話
  • 飽和脂肪酸7%から逆算した量の目安と、それが安全上限ではない理由
  • 「酪酸が豊富だから腸にいい」が、バターの酪酸では説明できない理由
  • ギーなら体にいいのか——実測では飽和脂肪酸はほぼ同じで、トランス脂肪酸はギーの方が多かった
  • 221,054人を最長33年追いかけた2025年のデータで、バターと死亡リスクの見え方がどう変わったのか
  • 飽和脂肪酸を減らす意味が大きいのは誰なのか——無作為化試験17本・66,337人をリスク層で分けた結果
  • バターコーヒーのLDLはバターだけの話ではない——コーヒーの淹れ方で100倍変わるカフェストールの実測

本記事は論文と食品成分値をもとにした一般的な情報提供であり、特定の食品が疾病を予防・改善することを示すものではありません。摂取量の判断は個人の状態によって異なります。健診で脂質の異常を指摘された方、治療中の方は自己判断せず、医師や管理栄養士にご相談ください。

目次

結論|「体に悪いか」を左右するのは、グラスフェッドかどうかより量

体に悪いかどうかは、グラスフェッドかどうかではなく、1日に何グラム使うかで決まります。

グラスフェッドバターをめぐる情報は、きれいに二極化しています。推す側は「最強のスーパーフード」「食べる美容液」と書き、心配する側は「動物性脂肪だから動脈硬化」と書く。どちらも数字を出さないので、読んだ側は判断できません。

そこで、SNSでよく見る言い方を、実測データと突き合わせてみます。

表1:よく見る主張と、論文で数えた実測
よく見る言い方 論文で数えるとどうなるか 出典
CLAが普通のバターよりずっと多い 平均で1.44倍(総脂肪酸の0.54%→0.78%)。バター10gに換算すると約45mg→約65mg Pustjens, Foods 2017
オメガ3が圧倒的に豊富 平均で1.26倍。10g換算の差は約9mg。n-3の1日の目安量(成人で2.0g前後)の0.45% Pustjens, Foods 2017
トランス脂肪酸を避けられる 逆。天然由来のトランスC18:1はグラスフェッドの方が多かった(2.89%→3.72%) Pustjens, Foods 2017
バターは体に悪い 14g/日あたり総死亡RR1.01、心血管RR1.00、2型糖尿病RR0.96。明確な有害性は示されていない Pimpin, PLoS One 2016
良質な脂だから量は気にしなくていい 1日50gを4週間とると、LDLの変化量がほかの油より約15mg/dL大きかった Khaw, BMJ Open 2018
新しいデータでもバターは問題ない 221,054人・最長33年では、バターが最も多い群の総死亡が最も少ない群より15%高い(HR 1.15)。バター10g/日を植物油に置き換えると総死亡HR 0.83 Zhang, JAMA Intern Med 2025
ギーに変えればもっと体にいい 実測では飽和脂肪酸はバターとほぼ同じ(66.69→64.26)で、トランス脂肪酸はギーの方が多かった(2.43→3.60) Mohammadi-Nasrabadi, Food Sci Nutr 2024

この表がこの記事の骨格です。成分の差は小さく、量の影響は大きい。だから「グラスフェッドだから安心して大量に使う」がいちばん筋の悪い選び方になります。

なお「ギーなら体にいいのか」は検索でもよく並ぶ問いですが、答えは同じ方向です。製法で乳固形分を取り除いても、脂肪酸の構成が体にいい方向へ変わるわけではありません。実測の中身は後半の章で表7として出します。

グラスフェッドでも飽和脂肪酸は多い|普通のバターとの共通点のほうが大きい

グラスフェッドでも飽和脂肪酸は多く、脂肪酸のおよそ半分を占めます。普通のバターとの共通点のほうが、差より大きいということです。

成分の違いを見る前に、共通点を確認しておきます。ここが抜けると、以降の数字を読み違えます。

  • 主成分は乳脂肪です。グラスフェッドでも、原料が牛乳であることに変わりはありません
  • 脂肪酸のおよそ半分は飽和脂肪酸です。これは飼料で大きく変わる部分ではありません
  • エネルギーは高い食品です。バター10gで約75kcal
  • 前項で見た差(CLA・オメガ3・トランス)は、いずれも総脂肪酸の1%未満から数%の範囲の話です

言い換えると、グラスフェッドと普通のバターの違いは脂肪酸組成の端のほうで起きていて、量の面での主役である飽和脂肪酸は、どちらも同じように多いということです。この記事でこのあと扱うLDLの話は、その主役のほうに関係します。

成分比較|CLA・オメガ3は「何倍」ではなく「何mg」違うのか

CLAは平均1.44倍、オメガ3は平均1.26倍です。バター10gに直すと差は約20mgと約9mgになります。

ここは推測ではなく実測データがあります。オランダで行われた研究で、市販されているバター54点(通常のバター28点・オーガニック14点・グラスフェッド12点)の脂肪酸組成が測定されています(Pustjens, Foods 2017)。

図解1:市販バター54点の実測(総脂肪酸に占める%・平均) 通常28点・グラスフェッド12点/すべて p<0.001(Pustjens, Foods 2017) 通常のバター グラスフェッド CLA(共役リノール酸) 0.54% 0.78%(1.44倍) α-リノレン酸(オメガ3) 0.43% 0.54%(1.26倍) 天然由来のトランス脂肪酸 (トランスC18:1) 2.89% 3.72%(1.29倍・こちらは多い) この平均値をバター10gに当てはめて試算すると CLAは45mg→65mg(差20mg)、オメガ3は36mg→45mg(差9mg)。個々の商品の含有量を保証する値ではありません

以下の「10gあたり何mg」は、この研究の平均脂肪酸比率を、脂質8.3gを含むバター10gに当てはめた試算値です。商品・季節・飼料・製法でばらつきがあり、グラスフェッド群のCLAは0.78±0.36%と分散も大きいので、個別商品の含有量を示すものではありません。

CLAは平均1.44倍|「5倍多い」はどこから来たのか

市販品の実測は1.44倍でした。「5倍」は飼料条件を振り切った研究の値か、特定の数字が独り歩きしたものです。

「グラスフェッドバターはCLAが5倍」という数字を見たことがあるかもしれません。しかし市販品を実測した値は0.54%→0.78%、つまり平均1.44倍でした。10g換算では約45mg→約65mg、差にして約20mgです。

では「5倍」がまったくの嘘かというと、そうとも言い切れません。飼料条件を実験的に振り切った比較では、もっと大きな差が出ます。米国で生乳1,163検体を3年間分析した調査では、CLAは牧草乳0.043 g/100g、通常乳0.019 g/100gで2.3倍の差がありました(Benbrook, Food Sci Nutr 2018)。ただしこれは生乳の比較であって、バターの含有量ではありません。牧草中心の飼養で原料乳の脂肪酸構成が変わることの裏づけとして読むべき研究です。

まとめると、「5倍」は条件を振り切った研究環境での値か、あるいは特定の資料の数字が独り歩きしたものです。店頭で買える製品を並べて測った差は約1.44倍、飼料条件を振り切った生乳の比較でも2.3倍です。どちらも5倍には届きません。(2.3倍は生乳の値で、バターの含有量ではありません)

オメガ3の差は10gで約9mg|1日の目安量の0.45%

バター10gあたりのオメガ3の差は約9mgです。1日の目安量2.0g前後の0.45%にあたる量です。

「オメガ3が豊富」も同じ構造です。α-リノレン酸は0.43%→0.54%で平均1.26倍。10g換算では通常バターで約36mg、グラスフェッドで約45mg、差は約9mgです。

n-3系脂肪酸の1日の目安量は成人でおおむね2.0g前後(性別・年齢で異なります/日本人の食事摂取基準2025年版)。9mgはその0.45%にあたります。

これは「グラスフェッドバターがダメ」という話ではありません。オメガ3を増やしたいなら、バターの種類を変えるより魚などの供給源を足すほうが桁が違う、という話です。バターは風味と調理性のために使うもので、栄養素の供給源として設計されたものではありません。

天然由来のトランス脂肪酸は、グラスフェッドの方が多かった

実測ではトランスC18:1が2.89%対3.72%で、グラスフェッドの方が1.29倍多く含まれていました。

ここは推している側もあまり触れない部分です。実測ではトランスC18:1が通常バター2.89%に対してグラスフェッド3.72%と、グラスフェッドの方が1.29倍多く含まれていました。

これは異常なことではありません。反芻動物の胃の中では、草に含まれる不飽和脂肪酸が微生物によって水素化される過程で、バクセン酸などの天然のトランス脂肪酸が生じます。草をよく食べた牛ほど、この天然トランス脂肪酸が増えます。CLAが増えるのと同じ仕組みの裏側です。

ただし、これを「だから危険」という結論につなげることはできません。天然由来のトランス脂肪酸と、部分水素添加油に由来する工業的なトランス脂肪酸で健康影響が同じかどうかは、この測定研究だけからは判断できませんし、多くの国の規制も工業由来を対象にしています。ここで言えるのは「グラスフェッドならトランス脂肪酸を避けられる」という言い方が、実測とは逆向きだという一点だけです。

ビタミンK2は、今回の資料では比較できませんでした

比較できていません。集めた9つの資料に、両者のビタミンK2を同一条件で測った数値がなかったためです。

「グラスフェッドバターはビタミンK2が豊富」もよく見る主張ですが、今回集めた9つの資料の中に、グラスフェッドバターと通常バターのビタミンK2含有量を同一条件で比較した測定データはありませんでした。販売サイトや個人ブログには数値が並んでいますが、出典をたどれるものが見つからなかったため、この記事では扱いません。「確認できなかった」とだけ書いておきます。

グラスフェッドバターの「効果」は、どこまで確認できるのか

成分の差は本物です。ただし体感や健康の結果までを示した根拠は別物で、今回の資料では確認できませんでした。

効果を3層に分ける|成分差・実用量・健康アウトカム

「効果がある/ない」の二択では答えが出ません。成分差・実用量・健康アウトカムの3層に分けると判定できます。

グラスフェッドバターの「効果」をめぐる話がかみ合わないのは、推す側と否定する側が別の層の話をしているからです。成分の差があることと、1回に使う量でその差が意味を持つことと、体重や検査値が実際に変わることは、それぞれ別の主張です。今回の資料では、この3層で通過できたのは1層目だけでした。

図解2:「効果」を3層に分けると、どこで止まっているかが見える 第1層 成分の差はあるか → 確認できる 市販バター54点の実測で、CLAは平均1.44倍、α-リノレン酸は平均1.26倍。統計的な差もある(p<0.001) ただし同じ実測で、天然由来のトランス脂肪酸はグラスフェッドの方が1.29倍多かった(Pustjens, Foods 2017) 第2層 1回に使う量で差が出るか → 差はmg単位まで小さくなる バター10gに直すと、CLAの差は約20mg、オメガ3の差は約9mg(n-3の1日の目安量2.0g前後の0.45%) CLAの試験で使われた中央値3.2g/日に届くには、バターが1日約500g必要になる(Whigham, AJCN 2007) 第3層 健康の結果まで示せているか → 比較した試験が見つからない グラスフェッドバターと通常バターを直接比べて、体重・LDL・心血管の指標を見た介入試験は見つかりません 「上がりにくい」も「上がりやすい」も、現時点では根拠がないという意味です ※この層が空いているので、以降の章で扱うLDLの話は「種類」ではなく「量」の話になります

推している側の説明は第1層で止まり、否定している側の説明は第3層を第1層の話に混ぜています。成分の差が本物であることと、その差で体が変わることは、別に確かめる必要があります。以下の表は、よく挙がる主張がどの層で止まっているかを一覧にしたものです。

「グラスフェッドバター 効果」で検索したときに出てくる主張を、今回の資料で確認できるかどうかで判定しました。「効果がある/ない」の二択ではなく、成分差は確認できるのか、実用量で差が出るのか、健康アウトカムまで示せているのかを分けています。

表2:よく挙げられる効果と、今回の資料での判定
主張 判定
通常バターよりCLAが多い 成分差は確認できる(平均1.44倍)。ただし10g換算の差は約20mg
通常バターよりオメガ3が多い 成分差は確認できる(平均1.26倍)。ただし10g換算の差は約9mg
食べれば痩せる バターとしての根拠は確認できない
CLAで脂肪が燃える サプリを用いた試験では小さな体脂肪減少の報告があるが、バターから届く量ではない
普通のバターよりLDLが上がりにくい グラスフェッドと通常を直接比較した介入試験は確認できない
心血管疾患を予防する 根拠は確認できない
ビタミンK2が豊富 今回の9資料では比較データを確認できない
バターコーヒーで脂肪が燃える バターコーヒー単独の効果を示した試験は確認できない
植物油より健康的 油の種類と置き換え先によるため一括して断定できない(後述の置き換え研究を参照)
酪酸が豊富で腸内環境が整う バターの酪酸では説明できない。酪酸は胃と小腸上部で吸収され、大腸内腔まで届く量はごくわずか。しかもグラスフェッド固有の成分ではない
ギーに変えればもっと体にいい 実測では飽和脂肪酸はほぼ同じで、トランス脂肪酸はギーの方が多かった(後述の表7)

ダイエット効果|CLAは、バターの量では届かない

届きません。試験で使われたCLAの中央値3.2g/日に届くには、バターが1日およそ500g必要になります。

グラスフェッドバターを推す文脈でほぼ必ず出てくるのがCLA(共役リノール酸)です。「脂肪の代謝を活性化する」という説明を、私自身も2021年の元記事に書いていました。今回、根拠を数えます。

成人を対象にしたCLAサプリメントの試験18本を集めたメタ解析では、CLAの中央値3.2g/日で、体脂肪の減少がCLA群単独で週あたり0.05kg、プラセボと比べて週あたり0.09±0.08kgと報告されています(Whigham, Am J Clin Nutr 2007、p<0.001)。1年続けても約4.7kgの計算になります。

問題は量です。グラスフェッドバター10gから試算されるCLAは約65mg。3.2gに到達するには1日およそ500gのバターが必要で、用量が約50倍違います。バター1箱が200gなので、毎日2箱半という計算になります。当然、その時点で飽和脂肪酸は目標量を大きく超えます。

さらに、CLAをサプリで増やす方向にも報告があります。腹部肥満の男性60人にCLAを3.4g/日、12週間投与した二重盲検試験では、t10c12という型のCLAでインスリン抵抗性が19%悪化(p<0.01)、血糖が4%上昇(p<0.001)、HDLコレステロールが4%低下(p<0.01)しました(Risérus, Diabetes Care 2002)。

つまり、CLAはグラスフェッドバターを選ぶ理由にはなりません。バターから届く量では試験で使われた量に遠く及ばず、届く量をサプリで摂ると別の指標が悪化した報告がある、というのが数字から出る答えです。

バターコーヒーとセットで語られるMCTオイルについても、期待と実際にはずれがあります。こちらは別記事で論文を並べて検証しています。

「酪酸が豊富だから腸にいい」は、バターの酪酸では説明できない

バターの酪酸で腸内環境が変わるとは言えません。酪酸は胃と小腸上部で吸収され、大腸まで届く量がごくわずかだからです。

「グラスフェッドバターは酪酸(ブチル酸)が豊富で腸活になる」という説明もよく見かけます。含有量そのものは間違っていません。酪酸はバターの総脂肪酸の約3〜4%を占めていて、食品のなかでは多い部類です。問題はその先です。

短鎖脂肪酸の吸収について、生理学で教科書的に扱われている知見はこうです。酪酸を含む短鎖脂肪酸は、胃と小腸の上部ですみやかに吸収されて門脈へ入るため、大腸の内側まで到達する量はごくわずかです。経口の酪酸サプリメントが腸まで溶けない設計(腸溶性製剤)にされるのも、そのまま飲むと大腸に届かないからです。

そして、大腸で使われる酪酸の主な供給源は、食物繊維やレジスタントスターチを腸内細菌が発酵させたものです。食品から飲み込んだ酪酸ではありません。つまり「腸のために酪酸を摂る」なら、経路として合っているのは繊維のほうです。

さらにもう1つ。酪酸はグラスフェッド固有の成分ではありません。乳脂肪に由来する成分なので、普通のバターにも同じだけ含まれています。グラスフェッドを選ぶ理由にはなりません。

まとめると、この主張は二重に成立しません。バターの酪酸で大腸の酪酸を増やす経路が確認できず、しかもその酪酸はグラスフェッド固有でもないということです。

「グラスフェッドならLDLが上がりにくい」は、確認できていない

確認できていません。グラスフェッドと通常バターを直接比較してLDLを見た介入試験は見つかりませんでした。

この記事でいちばん強調しておきたい空白です。グラスフェッドバターと通常バターを直接比較して、LDLコレステロールや心血管の指標がどう違うかを見た介入試験は、見つかりませんでした。

これは「グラスフェッドは上がりやすい」という意味でもありません。上がりにくいという主張も、上がりやすいという主張も、現時点では根拠がないということです。次の章で扱うLDLの試験は、いずれもバターの種類ではなく量を動かしたものです。

満腹感と集中は、グラスフェッドかどうかとは切り分けられていない

切り分けられていません。朝食を液体の高脂質に替えたこと自体の影響と、区別した記録がないためです。

X(旧Twitter)の投稿をいくつかのクエリで見た範囲では、体感として挙がっていたのは痩せたことより満腹感・腹持ち・集中でした。「1杯で昼まで空腹を感じない」「飲んで少し経つと頭が回り出す」といった書き方です。件数を数えたわけではないので、どれが多いという言い方はできません。私自身も、3か月続けた期間の体感は同じでした。

ただし、ここには2つの断りが要ります。

  • 比較の相手が「朝食なし」か「固形の朝食」になっています。朝食を液体の高脂質に置き換えたこと自体の影響と、バターの種類の影響が分かれていません
  • 普通のバターで作ったバターコーヒーと比べた記録がありません。比べていない以上、グラスフェッド固有の効果とは言えません

つまり、満腹感や集中の体感そのものを否定する話ではなく、それをグラスフェッドを選ぶ理由に使えないという話です。同じことは価格にも当てはまります。腹持ちのために飲むのであれば、バターの種類を上げるより、1杯に入れる量と朝食全体の組み立てのほうが効きます。

バターとLDLコレステロール|介入試験でどこまで分かっているか

1日50gを4週間とると、ほかの油と比べてLDLの変化量に約15mg/dLの差が出るところまで分かっています。

ここからが本題です。「グラスフェッドバターは体に悪いのか」と検索する人が本当に気にしているのは、たいていの場合健康診断の数字です。良質な脂だと聞いて始めたのに、LDLが引っかかったらどうしよう、という不安です。

この不安には、段階に分けて答えるのが正確です。「バターを食べると病気になる」という一本線ではなく、どの段階までが介入試験で示され、どこから先が観察研究の示唆にとどまるのかを分けます。

図解3:どの段階まで研究で示せているか ①1日の量 バター何g使うか 草かどうかは無関係 ②飽和脂肪酸 バター重量の約50% 10gで約5g ③LDLの変化 50g・4週で他の油と 約15〜16mg/dLの差 ④動脈硬化 置き換え研究で 差が出る段階 ⑤発症 個人差が大きい ①〜③=介入試験で確認(Khaw, BMJ Open 2018/n=91・4週・比較した油との群間差) ③〜④=観察研究による示唆(Li, JACC 2015/127,536人・24〜30年・因果の証明ではない) バターそのものと死亡・心血管の明確な関連は示されず(Pimpin, PLoS One 2016/636,151人) ここが空白:グラスフェッドバターだけを対象にした比較試験 「グラスフェッドならLDLが上がりにくい」を検証した介入試験は見つかりません。 上がりにくいという主張も、上がりやすいという主張も、現時点では根拠がありません。

1日50gの4週間比較試験|バター群は、ほかの油よりLDLの変化量が大きかった

バター群のLDLの変化量は、オリーブ油群より0.38 mmol/L(約15mg/dL)大きくなりました。

いちばん直接的なデータが、英国で行われた無作為化比較試験です。健康な男女が、ココナッツ油・オリーブ油・バターのいずれかを1日50g、4週間とるように割り付けられました(Khaw, BMJ Open 2018/最終解析91人)。

結果は、LDLコレステロールの変化量の群間差として報告されています。

  • バター群 − ココナッツ油群:+0.42 mmol/L(95%信頼区間0.19〜0.65、p<0.0001)=約16mg/dL
  • バター群 − オリーブ油群:+0.38 mmol/L(0.16〜0.60、p<0.0001)=約15mg/dL
  • ココナッツ油群 − オリーブ油群:-0.04 mmol/L(-0.27〜0.19、p=0.74)=差なし

ここは読み方に注意が必要です。この16mg/dLは「バターを50g食べたらLDLが16mg/dL上がる」という前後の変化ではなく、比較した油の群と比べたときの変化量の差です。バター群単独で何mg/dL動いたかを、この数字から直接読み取ることはできません。

それでも実務的に重要なのは、4週間という短さで、健診の判定が変わりうる大きさの差が油の種類によって生じていることです。「良質な脂だから量は気にしなくていい」が成立しないのは、この一点です。

スタチンを自己中断した男性で、LDLが49%上昇した症例報告(n=1)

LDLは156から232 mg/dLへ上がりました。ただし同時にスタチンを自己中断しており、切り分けられません。

もう少し目を引く報告もあります。米国の脂質専門誌に載った症例報告で、59歳の男性が、バターコーヒーを1日1〜2杯、数か月にわたって毎日続けたあとの検査値が記録されています(Toklu, J Clin Lipidol 2015)。

  • 総コレステロール:215 → 285 mg/dL(+33%
  • LDLコレステロール:156 → 232 mg/dL(+49%
  • HDLコレステロール:44 → 48 mg/dL(+9%)

数字だけ見ると衝撃的ですが、この報告をバターコーヒーの効果として一般化することはできません。この男性はもともと脂質異常症でスタチン(ロスバスタチン)を処方されており、バターコーヒーを始めるのと同時に、その薬を自己判断で中止しています。LDLの上昇には「バターコーヒーを足した」と「薬をやめた」の2つが同時に効いており、寄与を切り分けられません。しかもn=1で、掲載形態も抄録に近い短報です。前項の無作為化比較試験と同じ強さの証拠として並べてはいけません。

それでも紹介する価値があるのは、同じ形の話がX上でも見つかるからです。「毎朝バターコーヒー飲んでたけど健康診断受けたら脂質異常で引っかかったのでやめた」というような書き込みは、数は多くないものの実在します。バターコーヒーは1杯あたりバター10〜15gで、それが毎日となるため、食事全体に対する飽和脂肪酸の上乗せとしては小さくありません。

バターコーヒーでコレステロールが上がるのはなぜか|1杯15gの上乗せ

上げる材料は2つあります。1杯のバター10〜15gの飽和脂肪酸と、濾さないコーヒーのカフェストールです。

後の章の表6で見るとおり、バター15gには飽和脂肪酸が約7.6g含まれます。2,000kcalの人の1日の目標量(約15.6g)のほぼ半分です。バターコーヒーは1杯で終わる料理ではなく、毎朝の習慣として続けるものなので、この上乗せが毎日積み上がります。飽和脂肪酸の目標量は食事全体に対するものなので、残りの半分で牛乳・チーズ・肉・菓子をまかなうことになります。

X(旧Twitter)の投稿をいくつかのクエリで見た範囲では、「体重は落ちたが、健診でLDLや中性脂肪が上がったのでやめた」「グラスフェッドなら大丈夫と言われていたが、自分は上がった」といった書き込みが見つかります。ただしこれは個人の体験であって、同時期の食事全体の変化や体重の増減と切り分けられていません。因果として読める材料ではありません。それでも、前項の症例報告や介入試験と同じ方向を向いている点は、量の問題として頭に置いておく価値があります。

あわせて、読むときの注意を1つ。同じ範囲では、商品を扱う立場から「体にいい」と書いている投稿も見つかります。件数を数えたわけではないので、どちらが多いという言い方はできません。ただ、商品の紹介では健康面の強調が先に来やすく、1日の量の話は出にくい——という点は、読む側として知っておいて損はありません。誰かが何かを隠しているという話ではなく、目的が違うだけです。

この章ではバターの側だけを見ました。もう1つの材料であるコーヒーのカフェストールについては、次の章で実測値を出します。バターの量を減らしても数字が動かない場合、犯人がそちらのこともあります。

バターコーヒーそのものの熱量と太る条件は、別記事で1杯あたりのカロリーから検証しています。

健診結果は、LDLだけで自己判断しない

LDL単独では判断しません。non-HDL・中性脂肪・前回値・服薬状況を合わせて医師が総合的に見ます。

臨床検査技師は検体と数値を扱う職種で、患者さんに直接指導する立場ではありません。ですからここでは「こう食べなさい」ではなく、数値を見るときに何が抜け落ちやすいかだけ書きます。

脂質の評価は、LDLコレステロール単独ではなく、non-HDLコレステロール(総コレステロール − HDL)、中性脂肪、前回値からの変化、既往歴、服薬状況を合わせて医師が総合的に判断します。とくに中性脂肪が高い人ではLDLの計算値がずれることがあり、non-HDLのほうが実像に近い場合があります。

また、比較するなら条件をそろえることです。採血前の絶食時間、直前の飲酒、体重の増減で数値は動きます。「バターコーヒーを始めたらLDLが上がった」と考えるなら、少なくとも3か月あけて、条件をそろえた再検査の結果を持って相談するのが現実的です。検査値がいつ動くのかは項目ごとに違うので、ダイエットで血液検査の数値はいつ動く?血糖1週間・HbA1c3か月・LDL上昇の理由に期間ごとの目安をまとめています。

なお、LDLだけを見ていると差を見落とすことがあります。この記事の後半で扱うギーの比較試験は、LDLでは有意差が出なかったのにnon-HDLコレステロールとアポリポタンパクBでは差が出た例です。ここで書いた「LDL単独で判断しない」は、一般論ではなく実際の試験で起きています。

バターコーヒーのLDLは、バターだけの話ではない|コーヒーの淹れ方で変わる

濾していないコーヒーにはLDLを上げるカフェストールが入ります。淹れ方で濃度が100倍近く変わります。

ここまでバターの飽和脂肪酸の話をしてきましたが、バターコーヒーにはもう1つLDLを上げる材料が入っています。コーヒー豆の脂質に含まれるカフェストールとカワウェオール(ジテルペン類)です。これは紙のフィルターに吸着されるため、ペーパードリップで淹れればほぼ落ちますが、濾さない淹れ方だと残ります。

スウェーデンで職場のコーヒーマシンと家庭の淹れ方を測った研究があります(Orrje, Nutr Metab Cardiovasc Dis 2025)。中央値で比べた結果が次の表です。

表3:淹れ方によるカフェストール・カワウェオールの実測(mg/L・中央値)
淹れ方 カフェストール カワウェオール 備考
家庭のペーパードリップ 12(4〜24) 8(3〜19) 紙で濾すため最も低い
リキッドタイプのマシン 8(2〜343) 7(2〜288) 濃縮液を薄める方式
パーコレーター・フレンチプレス 約90 約70 金属フィルター=中間
職場のブリューイングマシン 176(24〜444) 142(18〜434) 機種による幅が大きい
煮出しコーヒー(無濾過) 939 678 この研究でいちばん高い区分
煮出し+布フィルター 28 21 布で漉すだけで大きく下がる

エスプレッソは幅が大きく、一部の検体では2,447 mg/Lに達していました。同じ「コーヒー1杯」でも、淹れ方によってカフェストールの濃度は100倍近く違うということです。

この研究では、職場のマシンのコーヒーを1日3杯・週5日、家庭のペーパードリップに替えた場合の効果を試算しています。その値がLDLコレステロールで−0.58 mmol/L(約22mg/dL)、アテローム性動脈硬化性心血管疾患の相対リスクで5年間に13%、40年間で36%の低下でした。

この数字の読み方(3つとも大事です)

1. −0.58 mmol/Lは測定値ではなく試算値です。実際に人に飲ませてLDLを測った試験ではなく、測ったカフェストール濃度から計算した推定です。研究チーム自身も、正確な影響を知るには対照を置いた試験が必要だと述べています。

2. これはコーヒーの淹れ方の研究であって、バターコーヒーの研究ではありません。前提は「マシンのコーヒー3杯/日・週5日」で、バターを入れた場合を測ったものではありません。バターコーヒー愛飲者の杯数や器具にそのまま当てはめることはできません。

3. それでも無関係ではありません。バターコーヒーで、豆をフレンチプレスや金属フィルターで淹れている場合は、バターの飽和脂肪酸とコーヒーのカフェストールが同じ1杯に乗ります。ペーパードリップで淹れてからバターを合わせている場合、乗るのは飽和脂肪酸だけです。どちらで淹れているかは、自分の器具を見れば分かります。

実務的に大事なのは、ここに今日から動かせる変数が1つ増えることです。バターコーヒーを続けたいけれどLDLが気になる、という場合、選択肢は「やめる」だけではありません。

  • 豆はペーパーフィルターで淹れてから、バターと合わせる(フレンチプレスや金属フィルターをやめる)
  • バターの量を1杯15gから10g、5gへ落とす(表6のとおり、15gで1日の飽和脂肪酸の目標量の約半分を使います)
  • 飲む日を減らし、飲む日は他の乳製品と肉を減らす

どれも「グラスフェッドかどうか」とは無関係です。LDLを動かしているのは種類ではなく、量と淹れ方だという、この記事の結論と同じ形になります。

バターコーヒーそのものの熱量と太る条件は、別記事で1杯あたりのカロリーから検証しています。

バターと死亡リスク|2016年と2025年で、見え方が変わった

2016年の636,151人では明確な関連が出ず、2025年の221,054人では総死亡が15%高い関連が出ました。

この章は、前回この記事を書いたときから結論の見え方が変わったところです。先に古いほうから並べます。

バターの摂取量と健康アウトカムの関係を調べた研究を集めたメタ解析では、9論文・15コホート・636,151人・650万人年が対象になりました。死亡28,271件、心血管疾患の新規発症9,783件、糖尿病の新規発症23,954件が含まれます(Pimpin, PLoS One 2016)。

バター14g/日(大さじ1杯強)あたりの相対リスクは次のとおりです。

  • 総死亡:RR 1.01(95%信頼区間1.00〜1.03、p=0.045)=統計的には境界的に有意
  • 心血管疾患:RR 1.00(0.98〜1.02、p=0.704)=明確な関連なし
  • 冠動脈疾患:RR 0.99(0.96〜1.03)
  • 脳卒中:RR 1.01(0.98〜1.03)
  • 2型糖尿病:RR 0.96(0.93〜0.99、p=0.021)=わずかに逆相関

ここで大事なのは、この研究は無作為化比較試験ではなく、観察研究をまとめたものだという点です。「バターは安全だと証明された」とは読めませんし、2型糖尿病のRR0.96も予防効果を示すものではありません。論文自身も、長期の介入試験を確認できなかったと述べています。

それでも、「LDLの変化量には差が出る」と「通常の摂取量では死亡・心血管との明確な関連が示されていない」の2つは、矛盾しません。前者は1日50gという多めの量を4週間集中してとった介入試験、後者は普段の食生活での摂取量(1日14g前後)を長期に観察した研究です。量が違えば見えるものも違う、という当たり前のことが起きています。

2025年|221,054人・最長33年では、総死亡が15%高かった

バター摂取が最も多い群の総死亡は、最も少ない群と比べてハザード比1.15でした。

2025年に、より大きく、より長いデータが出ました。同じ米国の3つのコホート(看護師健康調査、同II、医療従事者追跡研究)の参加者221,054人を最長33年追跡し、死亡50,932件(がん12,241件・心血管11,240件)を解析したものです(Zhang, JAMA Intern Med 2025)。

この研究では、バターと植物油の摂取量をそれぞれ4段階(第1群=最も少ない群を基準)に分けています。結果は次のとおりです。

  • バター摂取が最も多い群(第4群)の総死亡:ハザード比1.15(95%信頼区間1.08〜1.22、傾向性のp<0.001)=最も少ない群より15%高い
  • がん死亡:10g/日増えるごとにハザード比1.12(1.04〜1.20)
  • 心血管死:統計的に有意な関連なし
  • 植物油の摂取が最も多い群の総死亡:ハザード比0.84(0.79〜0.90)=最も少ない群より16%低い

そして、この研究でいちばん実務的なのが置き換えの解析です。バター10g/日を同じ量の植物油に置き換えたと仮定したモデルでは、次の値になりました。

  • 総死亡:ハザード比0.83(0.79〜0.86、p<0.001)=17%低い
  • がん死亡:ハザード比0.83(0.76〜0.90、p<0.001)=17%低い
  • 心血管死:ハザード比0.94(0.86〜1.03、p=0.17)=有意差なし

ここは読み方を丁寧にします。2016年のメタ解析と2025年のコホート研究は、矛盾しているわけではありません。比べているものが違います。Pimpin 2016はバター14g/日あたりの相対リスクを見たもので、Zhang 2025は摂取量が最も多い群と最も少ない群を比べたものです。前者で見えなかった差が、量の幅を広く取った後者では見えた、という関係になります。

また、どちらも観察研究です。バターを多く食べる人は他の食習慣や生活習慣も違う可能性があり、統計的に調整してもすべてを取り除けるわけではありません。「バターを食べると15%死にやすくなる」とは読めません。

それでも、この記事の前のバージョンがPimpin 2016の「明確な有害性は示されていない」だけで締めていたのは、いまの資料に照らすと不十分でした。より大きく長いデータが逆向きの関連を出している以上、そちらも並べて書くのが筋です。同時に、置き換え解析で心血管死に差が出なかったことも落とさずに書いておきます。

リスクは全員に同じだけあるわけではない|心血管リスクが高い人ほど、減らす意味が大きい

減らす意味が数字として大きくなるのは高リスク層でした。低〜中リスク層では5年で閾値に届きません。

ここまでは「平均するとどうか」の話でした。読者が本当に知りたいのは、たいてい「で、自分はどうなのか」のほうです。この問いに正面から答えた研究が2025年12月に出ています。

飽和脂肪酸を減らす、あるいは他の脂肪酸に置き換える介入をした無作為化試験17本・66,337人(平均年齢46〜66歳)をまとめ、参加者のもともとの心血管リスクの高さで層に分けて効果を見た系統的レビューです(Steen, Ann Intern Med 2026/2025年12月16日オンライン公開)。

表4:飽和脂肪酸を減らす/置き換える介入の効果(無作為化試験17本・66,337人)
アウトカム リスク比 95%信頼区間 読み方
総死亡 0.96 0.88〜1.06 信頼区間が1をまたぐ
心血管死 0.93 0.77〜1.11 信頼区間が1をまたぐ
非致死性心筋梗塞 0.86 0.70〜1.06 信頼区間が1をまたぐ
致死性・非致死性脳卒中 0.83 0.58〜1.19 信頼区間が1をまたぐ
非致死性心筋梗塞(多価不飽和脂肪酸に置き換えた場合) 0.75 単に減らすより効果が大きい(交互作用のp=0.05・中程度の確実性)

まず表の見方です。4つのアウトカムはいずれも信頼区間が1をまたいでいます。つまり「効果がない」可能性を統計的に排除できていません。確実性の評価も低〜中程度です。ここを飛ばして「飽和脂肪酸を減らせば死亡が4%減る」と書くのは、この研究の読み方として正しくありません。

この研究の中心は、平均値ではなく層別の絶対効果のほうにあります。

誰にとって意味のある大きさになるのか

  • 低〜中リスクの人(もともと心血管疾患がなく、危険因子も重なっていない人)では、5年間の絶対的な減少が「意味がある」とされる目安(致死的なアウトカムで1,000人あたり5件、非致死的なアウトカムで1,000人あたり10件)に届きませんでした
  • 高リスクの人(心血管疾患の既往がある、または危険因子が重なっている人)では、この目安を超えました。とくに多価不飽和脂肪酸に置き換えた場合に大きくなります

※ 高リスク層の区切りとして20〜30%という数値が引用されることがありますが、それが何年間の発症リスクを指すのかを一次資料で確認できなかったため、この記事では数値ではなく上記の定義で書いています。

ここから出る答えは、意外に穏やかです。健診の脂質がすべて基準内で、家族歴も既往もなく、喫煙も高血圧も糖尿病もない人が、バターを1日10g使うことを心配し続ける意味は、この研究からは大きくありません。一方で、すでにLDLや血圧や血糖で引っかかっている人、心筋梗塞や狭心症の既往がある人にとっては、同じ10gの意味が変わります。

自分がどちらに近いかは、健診結果と病歴で決まります。判断がつかない場合は、この記事の数字ではなく、ダイエットで血液検査の数値はいつ動く?血糖1週間・HbA1c3か月・LDL上昇の理由で検査値の動き方を確認したうえで、健診の判定区分を持って医師に相談するのが早いです。

減らした分を、何に置き換えるかで差がつく

飽和脂肪酸のエネルギー5%を多価不飽和脂肪酸へ置き換えると、冠動脈疾患のハザード比は0.75でした。

飽和脂肪酸の議論でいちばん実務的に役立つのが、置き換えの研究です。

看護師健康調査と医療従事者追跡研究の参加者、女性84,628人・男性42,908人を24〜30年追跡し、冠動脈疾患7,667件を解析したデータがあります(Li, J Am Coll Cardiol 2015)。飽和脂肪酸から摂っているエネルギーの5%を別の栄養素に置き換えたとき、冠動脈疾患のリスクは次のように低い関連を示しました。

表5:飽和脂肪酸のエネルギー5%を置き換えたときの冠動脈疾患リスク(観察研究)
置き換える先 ハザード比 95%信頼区間 具体例
多価不飽和脂肪酸 0.75 0.67〜0.84 植物油、青魚、くるみ
一価不飽和脂肪酸 0.85 0.74〜0.97 オリーブ油、菜種油、アボカド
全粒穀物由来の糖質 0.91 0.85〜0.98 玄米、全粒粉パン、オートミール

いちばん低かったのは多価不飽和脂肪酸への置き換えでした。ここで注意したいのは、この研究が比べているのは「バターを減らすかどうか」ではなく「減らした分を何で埋めるか」だという点です。バターをやめて代わりに菓子パンを食べれば、置き換え先が精製糖質になるので同じ結果にはなりません。観察研究なので因果を示すものではありませんが、「減らす」だけを目標にしないという考え方は、実際に食事を組むうえで役に立ちます。

そして、この置き換えの話は観察研究と介入試験が同じ方向を指した数少ない論点でもあります。前の章で見た2つを、ここに並べておきます。

  • 観察研究:バター10g/日を植物油に置き換えると総死亡ハザード比0.83(Zhang, JAMA Intern Med 2025/221,054人)
  • 無作為化試験のまとめ:飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換えると非致死性心筋梗塞のリスク比0.75。単に減らすだけの場合(0.86)より効果が大きい(Steen, Ann Intern Med 2026/17試験・66,337人・中程度の確実性)
  • 観察研究:飽和脂肪酸のエネルギー5%を多価不飽和脂肪酸へ置き換えると冠動脈疾患のハザード比0.75(Li, JACC 2015/127,536人)

研究の型も対象も違いますが、「減らす」より「何に替えるか」で差が出るという向きは3つとも一致しています。この記事で自信をもって書けることが1つあるとすれば、ここです。

SNSでは「植物油は毒だからグラスフェッドバターかギーにしろ」という主張をよく見かけますが、油脂を一括して有害とする根拠はなく、種類と量と置き換え先で評価するしかありません。少なくとも冠動脈疾患について長期追跡されたこのデータは、その主張とは逆の方向を示しています。

1日何グラムと考えるか|31gは「安全上限」ではありません

バター換算31gは、飽和脂肪酸の目標量の枠を全部バターに使ったときの理論値で、安全上限ではありません。

ここまでの話を、量の感覚に落とします。ただし先に強調しておきます。

飽和脂肪酸の目標量は、バターだけに割り当てられた枠ではありません。肉・乳製品・菓子・加工食品を含む、1日の食事全体の合計に対する目標です。このあとの「バター換算31g」は、枠を全部バターに使ったと仮定した場合の理論値であって、「31gまでなら安全」という意味ではありません。

日本人の食事摂取基準(2025年版)では、飽和脂肪酸の目標量は1日のエネルギーの7%以下とされています。2,000kcalの人なら140kcal、脂質1gが9kcalなので約15.6gです。

有塩バターの飽和脂肪酸は、重量100gあたりおよそ50g(日本食品標準成分表)。ここからバターの量に直したものが次の表です。

表6:バターの量と、飽和脂肪酸の1日の目標量に占める割合(前提=総エネルギー2,000kcal・飽和脂肪酸は目標量7%未満で15.6g・有塩バター100gあたり飽和脂肪酸50gで計算)
1日のバター量 飽和脂肪酸 目標量に占める割合 目安
5g 約2.5g 16% トースト1枚に塗る量
10g 約5.0g 32% バターコーヒー控えめ1杯
15g 約7.6g 49% バターコーヒー標準1杯=これだけで目標量の半分
20g 約10.1g 65% コーヒー1杯+トースト1枚
31g 約15.6g 100% バターだけで目標量に到達(=ほかの食品の分が残らない)
50g 約25.2g 162% Khawの試験と同じ量

見てほしいのは15gの行です。バターコーヒーを標準的なレシピで1杯飲むと、それだけで1日の飽和脂肪酸の目標量の半分を使います。残りの半分で、牛乳・チーズ・肉・菓子・パンを含む1日の食事すべてをまかなうことになります。現実には、かなり窮屈な配分です。

私自身の運用は「バターコーヒーを飲む日は、その日の他の乳製品と肉を減らす」です。足し算ではなく置き換えにする——これが前章の置き換え研究とも整合する考え方だと思っています。

ギーなら体にいいのか|実測ではギーの方がトランス脂肪酸が多い

ギーに変えても答えは変わりません。実測では飽和脂肪酸はバターとほぼ同じで、トランス脂肪酸はギーの方が多いという結果でした。

前の章で触れた「植物油は毒だからグラスフェッドバターかギーにしろ」という主張の、ギーの側です。ギーはバターを加熱して、水分と乳固形分(乳タンパクと乳糖)を煮詰めて取り除いた油で、これは製法の定義です。乳固形分を除いてあることと、脂肪酸の構成が体に良い方向へ変わることは別の話です。

バター・ギー・マーガリンの脂肪酸をガスクロマトグラフィで測定した研究があります(Mohammadi-Nasrabadi et al., Food Science & Nutrition 2024)。

表7:バター・ギー・マーガリンの脂肪酸実測(脂肪100gあたりg・平均±SD)
成分 バター ギー マーガリン
総飽和脂肪酸 66.69 ± 0.39 64.26 ± 0.63 40.36 ± 0.87
トランス脂肪酸 2.43 ± 0.09 3.60 ± 0.29 0.83 ± 0.15

見てほしいのは2行だけです。飽和脂肪酸はバターとギーでほぼ同じ(66.69に対して64.26)。そしてトランス脂肪酸はギーの方が多い(2.43に対して3.60)。この記事の前半で見た「天然由来のトランス脂肪酸はグラスフェッドの方が多かった」(Pustjens, Foods 2017)と同じ向きの結果です。

ここでも、天然由来のトランス脂肪酸が工業的なトランス脂肪酸と同じ影響を持つかは、この測定研究だけからは判断できません。言えるのは「ギーに変えればトランス脂肪酸を避けられる」という言い方が、実測とは逆向きだという一点です。

では、ギーを選ぶ意味がまったくないのかというと、そうではありません。ただし理由が健康ではないだけです。X(旧Twitter)の投稿を見た範囲では、ギーを選んだ理由として挙がっていたのは、加熱に向くこと、乳成分が入っていないこと、味の好み、そしてコスパでした。件数を数えたわけではないので割合は言えませんが、「どちらが医学的に正解か」を理由に挙げた投稿は、見た範囲では見当たりませんでした。当社としても、この選び方のほうが筋が通っていると考えています。健康を理由に高い方へ乗り換えるより、風味と使い勝手で選んで、1日の量を決めるほうが現実的です。

ギーとオリーブ油の比較試験|LDLは動かなかったが、non-HDLとアポBは動いた

ギーをオリーブ油と入れ替えた試験では、LDLは動きませんでしたが、non-HDLとアポBは有意に上がりました。

健康な成人30人を対象にした2期クロスオーバー無作為化試験です。ギー中心の食事とオリーブ油中心の食事をそれぞれ4週間ずつ、あいだに2週間の休止期間を挟んで比較しました。使った脂質の量は1日あたり平均30.6±6.7g(総エネルギーの約15%)です(Mohammadi Hosseinabadi & Nasrollahzadeh, Br J Nutr 2022)。

オリーブ油食に対するギー食の群間差は次のとおりです。

  • アポリポタンパクB:+0.09 g/L(95%信頼区間0.02〜0.17、p=0.018)=有意に増加
  • non-HDLコレステロール:+0.53 mmol/L(0.01〜1.05、p=0.046)=約20mg/dL・有意に増加
  • LDLコレステロール:+0.29 mmol/L(-0.05〜0.63、p=0.092)=約11mg/dL・有意差なし
  • 中性脂肪・血糖・インスリン・PAI-1:いずれも有意差なし

この試験の読み方(2つとも大事です)

1. これはギーの試験であって、グラスフェッドバターの試験ではありません。ここからグラスフェッドバターの影響を読み取ることはできません。飽和脂肪酸の多い油をオリーブ油と入れ替えたときに何が動くか、という話としてだけ扱います。

2. LDLだけを見ていたら「差はなかった」で終わっていました。実際に有意差が出たのはnon-HDLコレステロールとアポリポタンパクBです。前の章で「健診結果はLDLだけで自己判断しない」と書いたのは、この形のことです。一般論ではなく、実際の試験で起きています。

結局、グラスフェッドと普通のバター、どちらを選べばいいのか

健康を理由に買い替える必要はありません。先に決めるのは種類ではなく、1日に何グラム使うかのほうです。

ここまでの数字から出る答えは、そっけないものです。

  • 健康への影響だけを理由に、高価なグラスフェッドへ買い替える必要性は、今回の資料からは示せません。成分差は確認できますが、1回に使う量に直すと差が小さく、健康アウトカムを比較した試験もありません
  • 一方で、味や香り、飼育方針、ブランドで選ぶことに問題はありません。実際「草っぽい香りが好き」「クセが強くて合わない」と好みは割れています
  • 通常バターから買い替えても、飽和脂肪酸の問題は消えません。枠の計算は同じです
  • したがって、判断の順番は「どちらを買うか」より先に「1日どれだけ使うか」になります

買うのであれば、先に1日の量を決めてから買うことをおすすめします。私自身は、大きな塊で安く買うと、消費のために使う量が増えました。

健診でLDLが高かった人は、自己判断で続けない

健診で脂質を指摘されている方は、この記事の数字だけで続ける・やめるを決めず、医師や管理栄養士に相談してください。

ここまでは平均の話でした。次に当てはまる方は、平均の外にいる可能性があります。

  • 健診でLDLコレステロールまたはnon-HDLコレステロールの異常を指摘された
  • 脂質異常症の治療中である
  • スタチンなどの薬を自己判断で中断している(Toklu の症例報告と同じ構図です。いちばん避けたい状態です)
  • バターコーヒーを始めた前後で、検査値が大きく変化した
  • 家族性高コレステロール血症を指摘されたことがある、または家族に若くして心筋梗塞・狭心症になった人がいる
  • 肝機能の数値を指摘されている(脂肪肝がある場合、見るべき順番が変わります。脂肪肝にいい食べ物・肝臓に悪い食べ物ランキングで整理しています)

旧記事の記述について、訂正します

この記事の以前のバージョンには「私は10kg痩せたあとに、更に完全無欠コーヒーで3kg痩せました」「結論:全く悪くありません」と書いていました。今回、手元のデータを確認して訂正します。

  • 体組成計アプリに残っている記録は、2020年11月から2021年2月にかけて82.05kgから約72.4kg(-9.65kg)という変化です
  • 同時期に食事の変更が複数あり、バターコーヒー単独の寄与を切り分けられるデータはありません。当時の脂質検査の値も記録していませんでした
  • したがって「バターコーヒーで3kg痩せた」は体感であり、根拠として提示できるものではありません
  • そもそも個人の体重変化は、その食品の安全性の証明にはなりません

減量そのものの実データは別記事で全部出しています → ダイエット成功の中身を全部出す|82.05kg→72.4kgの実データを臨床検査技師が論文で解剖する

なお、3か月続けた体感として、朝食をバターコーヒーに置き換えると昼まで空腹を感じにくかったのは事実です。ただしこの体感から、グラスフェッド固有の効果だったと判断することはできません。朝食を固形物から液体の高脂質に置き換えたこと自体の影響と切り分けられておらず、普通のバターと比べた記録も取っていないからです。

まとめ|草かどうかではなく、量で決まる

グラスフェッドが特別に体に悪い根拠も、体にいい根拠も見つかりません。決めているのは種類ではなく量です。

  • グラスフェッドバターが普通のバターより特別に体に悪いことを示した研究は見当たらない
  • 同時に「体にいい」も確認できない。実測でCLAは平均1.44倍、オメガ3は平均1.26倍(Pustjens, Foods 2017/市販54点)
  • 10gに換算するとオメガ3の差は約9mg。1日の目安量2.0g前後の0.45%にすぎない
  • むしろ天然由来のトランス脂肪酸はグラスフェッドの方が多かった(2.89%→3.72%)。ただし工業由来と同じ影響かは判断できない
  • グラスフェッドと通常バターを直接比較した介入試験は見つからない。「上がりにくい」も「上がりやすい」も根拠なし
  • バター1日50gを4週間とった試験では、LDLの変化量がオリーブ油群より約15mg/dL大きかった(Khaw, BMJ Open 2018/n=91・群間差)
  • LDLが49%上昇した症例報告はスタチン自己中断が同時に起きたn=1で、一般化できない(Toklu, J Clin Lipidol 2015)
  • 通常の摂取量では、バターと死亡・心血管の明確な関連は示されていない(Pimpin, PLoS One 2016/636,151人・観察研究)
  • 差がつくのは減らすことより置き換え先。多価不飽和脂肪酸へ5%置き換えでハザード比0.75(Li, JACC 2015)
  • CLAでの減量はバターの量では届かない。試験の中央値3.2g/日にはバター約500g必要(Whigham, AJCN 2007)
  • 飽和脂肪酸の目標量は7%=2,000kcalで15.6g。バター換算31gは枠を全部バターに使った理論値で、安全上限ではない
  • 2025年の221,054人・最長33年では、バターが最も多い群の総死亡ハザード比1.15。ただし心血管死に有意な関連はなく、観察研究である(Zhang, JAMA Intern Med 2025)
  • 減らす意味が数字として大きくなるのは高リスク層。低〜中リスク層では5年で閾値に届かない(Steen, Ann Intern Med 2026/17試験・66,337人・信頼区間は1をまたぐ)
  • バターコーヒーのLDLはバターだけの話ではない。濾さないコーヒーのカフェストールは中央値で最大939 mg/L、ペーパードリップなら12 mg/L(Orrje, Nutr Metab Cardiovasc Dis 2025)

「良質な脂だから安心」という言葉がいちばん危ないのは、それが量の判断を止めてしまうからです。グラスフェッドバターは、風味と、少しだけ違う脂肪酸組成を持ったおいしいバターです。それ以上でも以下でもありません。量を決めて使うのであれば、種類で悩む必要はないはずです。

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よくある質問

Q. グラスフェッドバターは普通のバターよりLDLコレステロールが上がりにくいですか?

A. 確認できていません。グラスフェッドバターと通常バターを直接比較して、LDLへの影響の差を見た介入研究は今回見つかりませんでした。グラスフェッドでも飽和脂肪酸を多く含むため、種類ではなく食事全体での摂取量を見るのが現実的です。なお、バターコーヒーで測っている場合は、バターの種類より先に見るべき変数がもう1つあります。濾していないコーヒーに含まれるカフェストールで、こちらは淹れ方で濃度が100倍近く変わります(Orrje, Nutr Metab Cardiovasc Dis 2025)。

Q. バターコーヒーを毎日飲むと健康診断で引っかかりますか?

A. 全員が引っかかるとは言えません。一方で、バター50gを用いた4週間の比較試験では、LDLの変化量がほかの油の群より約15〜16mg/dL大きくなりました(Khaw, BMJ Open 2018)。またn=1の症例報告では、スタチンを自己中断した男性でLDLが49%上昇しています(Toklu, J Clin Lipidol 2015)。開始前後の検査値を確認し、異常があれば自己判断で継続しないことをおすすめします。

Q. グラスフェッドバターは1日何グラムまでなら大丈夫ですか?

A. 一律の安全量は決められません。2,000kcalで飽和脂肪酸7%は約15.6gですが、これは肉・乳製品・菓子などを合算した1日全体の目標量です。バター換算で約31gという数字は、この枠を全部バターに使ったと仮定した理論値であって、安全上限ではありません。バターコーヒー1杯(15g)で目標量の約半分を使う、という感覚で組み立ててください。

Q. グラスフェッドバターのCLAやオメガ3にはダイエット効果がありますか?

A. バターとしての根拠は確認できません。平均含有率は通常バターより高いものの、10g換算でCLAの差は約20mg、オメガ3の差は約9mgです。CLAの試験で使われた量は中央値3.2g/日(Whigham, Am J Clin Nutr 2007)で、バターで摂るには約500g必要になります。通常の食べ方では届きません。では、その量をサプリで摂れば効くのかというと、そこにも例外があります。腹部肥満の男性60人にCLAを3.4g/日、12週間投与した二重盲検試験では、t10c12型でインスリン抵抗性が19%悪化しました(Risérus, Diabetes Care 2002、p<0.01)。量を増やす方向にも安全な余白があるわけではありません。

Q. バターコーヒーでLDLが上がるのは、バターのせいですか?

A. バターだけとは限りません。濾していないコーヒーにはLDLを上げるカフェストールが含まれ、実測では煮出しで中央値939 mg/L、職場のマシンで176 mg/L、家庭のペーパードリップで12 mg/Lでした(Orrje, Nutr Metab Cardiovasc Dis 2025)。豆をフレンチプレスや金属フィルターで淹れている場合は、バターの飽和脂肪酸とコーヒーのカフェストールが同じ1杯に乗ります。続けたい場合は、豆をペーパーフィルターで淹れてからバターと合わせる方法があります。

Q. 健診のLDLが基準内なら、気にしなくていいですか?

A. 基準内かどうかだけでは決まりません。無作為化試験17本・66,337人をリスク層で分けた系統的レビューでは、飽和脂肪酸を減らす絶対的な効果が意味のある大きさになったのは、心血管疾患の既往がある人や危険因子が重なっている高リスク層で、低〜中リスク層では5年間で閾値に届きませんでした(Steen, Ann Intern Med 2026)。LDLのほか、血圧・血糖・喫煙・家族歴・年齢が合わさって決まるため、判断がつかない場合は健診の判定区分を持って医師に相談してください。

Q. オーガニックバターや、グラスフェッド以外のこだわりバターはどうですか?

A. 同じ研究がオーガニックバター14点も測っていて、意外な結果が出ています。CLAは0.86%、α-リノレン酸は0.73%で、どちらもグラスフェッド(0.78%・0.54%)より高い値でした(Pustjens, Foods 2017)。天然由来のトランス脂肪酸も3.58%で、グラスフェッド(3.72%)と同程度です。つまり「グラスフェッドがいちばん成分に優れている」とは言えません。ただしこれも総脂肪酸に占める1%未満の差なので、10gに直せば差はやはりmg単位です。種類より量、という判断の順番は変わりません。

Q. ギーならグラスフェッドバターより体にいいですか?

A. 今回の資料からは言えません。バター・ギー・マーガリンを実測した研究では、総飽和脂肪酸はバター66.69g/ギー64.26g(脂肪100gあたり)とほぼ同じで、トランス脂肪酸はギーの方が多い結果でした(Mohammadi-Nasrabadi, Food Sci Nutr 2024)。またギー食とオリーブ油食を比べたクロスオーバー試験では、ギー食でnon-HDLコレステロールとアポBが有意に増えています(Br J Nutr 2022)。ギーは乳固形分を除いてある油なので、加熱に向く・乳成分が入っていないといった使い勝手の理由で選ぶのは筋が通りますが、健康を理由に乗り換える根拠は見当たりません。

Q. 健診でLDLが高かったら、グラスフェッドバターをやめるべきですか?

A. この記事だけで中止・継続を決めず、摂取量・ほかの食事内容・服薬・既往歴・前回値を含めて医師にご相談ください。判断材料としては、飽和脂肪酸を減らすこと自体より減らした分を何で埋めるかのほうが冠動脈疾患のリスクと関連していました(多価不飽和脂肪酸への5%置き換えでハザード比0.75/Li, JACC 2015)。なお、脂質異常症の薬を自己判断で中断するのは避けてください。

参考文献

本文で数字を挙げた論文13本と、国の基準1件です。撤回・訂正の通知は2026年9月9日時点で確認していません。

  1. Pustjens AM, Boerrigter-Eenling R, Koot AH, Rozijn M, van Ruth SM. Characterization of retail conventional, organic, and grass full-fat butters by their fat contents, free fatty acid contents, and triglyceride and fatty acid profiling. Foods. 2017;6(4):26. PMC
  2. Benbrook CM, Davis DR, Heins BJ, et al. Enhancing the fatty acid profile of milk through forage-based rations, with nutrition modeling of diet outcomes. Food Sci Nutr. 2018;6(3):681-700. Wiley Online Library
  3. Khaw KT, Sharp SJ, Finikarides L, et al. Randomised trial of coconut oil, olive oil or butter on blood lipids and other cardiovascular risk factors in healthy men and women. BMJ Open. 2018;8(3):e020167. PubMed
  4. Toklu A, et al. Rise in serum lipids after dietary incorporation of “bulletproof coffee”. J Clin Lipidol. 2015;9(3):462.(症例報告・n=1) Journal of Clinical Lipidology
  5. Pimpin L, Wu JH, Haskelberg H, Del Gobbo L, Mozaffarian D. Is butter back? A systematic review and meta-analysis of butter consumption and risk of cardiovascular disease, diabetes, and total mortality. PLoS One. 2016;11(6):e0158118. PLOS ONE
  6. Li Y, Hruby A, Bernstein AM, et al. Saturated fats compared with unsaturated fats and sources of carbohydrates in relation to risk of coronary heart disease: a prospective cohort study. J Am Coll Cardiol. 2015;66(14):1538-48. PubMed
  7. Whigham LD, Watras AC, Schoeller DA. Efficacy of conjugated linoleic acid for reducing fat mass: a meta-analysis in humans. Am J Clin Nutr. 2007;85(5):1203-11. PubMed
  8. Risérus U, Arner P, Brismar K, Vessby B. Treatment with dietary trans10cis12 conjugated linoleic acid causes isomer-specific insulin resistance in obese men with the metabolic syndrome. Diabetes Care. 2002;25(9):1516-21. PubMed
  9. Mohammadi-Nasrabadi F, et al. A comparative analysis of butter, ghee, and margarine and its implications for healthier fat and oil group choices: SWOT analysis. Food Sci Nutr. 2024. PMC
  10. Mohammadi Hosseinabadi S, Nasrollahzadeh J. Effects of diets rich in ghee or olive oil on cardiometabolic risk factors in healthy adults: a two-period, crossover, randomised trial. Br J Nutr. 2022;128(9):1720-1729. PubMed
  11. Zhang Y, Chadaideh KS, Li Y, et al. Butter and plant-based oils intake and mortality. JAMA Intern Med. 2025;185(5):549-560. doi:10.1001/jamainternmed.2025.0205 PMC
  12. Steen JP, Klatt KC, Chang Y, et al. Effect of interventions aimed at reducing or modifying saturated fat intake on cholesterol, mortality, and major cardiovascular events: a risk stratified systematic review of randomized trials. Ann Intern Med. 2026;179(2):242-255. doi:10.7326/ANNALS-25-02229(2025年12月16日オンライン公開) Annals of Internal Medicine
  13. Orrje E, Fristedt R, Rosqvist F, Landberg R, Iggman D. Cafestol and kahweol concentrations in workplace machine coffee compared with conventional brewing methods. Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2025. doi:10.1016/j.numecd.2025.103933 PubMed
  14. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(脂質・飽和脂肪酸の目標量). 厚生労働省

この記事を書いた人

臨床ブロガー 臨床検査技師/18年・88kg→65kg

検査値を通して人の体を見てきました。論文を確認し、自分の実測とは分けて書いています。医師・管理栄養士ではなく、診断・治療・服薬の判断は行いません。

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この記事を書いた人

臨床検査技師。専門は生化学検査。健診センターのデータ業務、治験コーディネーター(CRC)、総合病院、公立病院の経営推進課を経て、現在はWEBマーケティングが本業。自身が20回のダイエット失敗のあと88kgから65kgへ。論文を読んで気になったものを自分の体で試し、体重・腹囲・血液検査・体組成という数値で確かめた記録を書いています。効くものは効くと、効かないものは効かないと書きます。広告主から記事内容の指定を受けることはありません。

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