ここ2日くらいでケトスティックの色が変わらなくなった。これって失敗ですか?
色が薄くなったことだけでは、失敗とは判断できません。尿に出るケトン体の量は、体が慣れてくると減っていくからです。
私は臨床検査技師として18年、検査値がどんな条件で出た数字なのかを確かめる仕事をしてきました。ケトン体の話がややこしいのは、尿の試験紙・血液・呼気という3つの測り方があり、そのどれもが「mmol/L」や「+」で表示されるところです。単位が似ているせいで、まったく別のものが同じ数字として比べられてしまいます。この記事では、その3つを分けたうえで、「どの数字なら気にしなくていいのか」「どこからは数字ではなく症状を見るべきなのか」を、学会のガイドラインと論文の実数で置いていきます。
この記事でわかること
・減量と関連した数値:217人・14日の連日測定で体重減少と最も関連したのは、血中β-ヒドロキシ酪酸0.5 mmol/L以上だったこと。「もっと高くすればもっと痩せる」という結果ではないこと
・3.8 mmol/Lの意味:これは「安全上限」ではなく、日本糖尿病学会が示している重炭酸イオンの低下と対応する報告値であること。ケトアシドーシスは数値ひとつでは診断しないこと
・特に注意が必要な条件:妊娠中・授乳中・SGLT2阻害薬の服用中に加えて、学会が飢餓状態・低炭水化物食・感染症・脱水・アルコール多飲・肝疾患・やせを挙げていること
・ケトスティックの限界:見ているのは尿中のアセト酢酸で、血中のβ-ヒドロキシ酪酸ではないこと。チャートの「16 mmol/L」は血中の16ではないこと
・換算できないこと:血液・尿・呼気の数値は、単位が同じでも相互に置き換えられないこと
・数値が高い=脂肪が燃えている、ではないこと。MCTオイルや外因性ケトンでも数値は上がること
・受診の目安:悪心・嘔吐・腹痛・強い倦怠が続いたら、血糖値が正常でも受診すること
※この記事は減量目的でケトジェニックや糖質制限をしている健康な成人が、自分で測った数値をどう扱うかを整理するものです。診断・治療に代わるものではありません。
※糖尿病の治療を受けている方、とくにSGLT2阻害薬を使用中の方、妊娠中・授乳中の方は、自己判断で糖質制限を始めないでください。腎臓・肝臓に持病のある方、薬を飲んでいる方も、始める前に医師に相談してください。
※ケトジェニックのやり方・糖質量の決め方・食事の組み方はケトジェニックダイエットとは?やり方・食事・コンビニを論文で検証にまとめています。この記事は、そこから「測った数字をどう読むか」だけを切り出したものです。
結論|減量と関連したのは血中0.5 mmol/L。高いほど痩せるとは言えない
体重減少と最も関連したのは血中ケトン体0.5 mmol/L以上でした。それ以上に上げると多く減る、という結果ではありません。
ここで言う「血中ケトン体」は、正確にはβ-ヒドロキシ酪酸(BHB)のことです。ケトン体には3種類(β-ヒドロキシ酪酸・アセト酢酸・アセトン)あり、血液で測るのはこのうち量がいちばん多くて安定しているβ-ヒドロキシ酪酸です。以下、この記事で「血中◯ mmol/L」と書いたときは、すべてこれを指します。
217人・14日の連日測定で、体重減少と最も関連したのは0.5 mmol/L以上
回帰分析で体重減少と最も関連したのは、血中β-ヒドロキシ酪酸が0.5 mmol/L以上あるかどうかでした。
【公式仕様】2026年にNutrition & Diabetes誌に載った研究(Paoli A ら)は、過体重または肥満の成人217人(男性111人・女性106人)がケトジェニック食を14日間行うあいだ、毎日の血中β-ヒドロキシ酪酸を測っています。回帰分析の結果、有意な体重減少と最も強く関連した濃度は0.5 mmol/L以上でした。
0.5という数字は、ケトーシスの入口としてよく挙げられる値と一致します。つまり「ケトーシスに入っているかどうか」の線と、「体重が動いたかどうか」の線が、この研究では同じところに来たということです。
この研究は「もっと高くすればもっと痩せる」とは言っていません
示されたのは0.5 mmol/Lという関連の閾値までです。それ以上に上げると減量が増える、とは書かれていません。
読み方には制限もつきます。この研究は14日間という短い期間の、観察的な関連を見たものです。「0.5にすれば痩せる」という因果関係を証明したものではありませんし、14日より先のことは分かりません。それでも、日々の数字に一喜一憂している人にとって使える情報が1つあります。0.5を超えたあとの数字は、少なくともこの研究では、減量の成績と結びついていないということです。
ケトスティックの色を濃くしようとしてMCTオイルや生クリームを足す、という工夫をよく見かけます。数値を動かすことはできますが、それが体重の動きにつながるという根拠は、この研究からは出てきません。ケトジェニックで実際にどれくらい痩せるのかのほうは、ケトン体の高さではなく、続けられたかどうかで説明されています。
数値より先に見るもの|症状と、いま飲んでいる薬
先に見るのは数値ではなく症状です。悪心・嘔吐・腹痛・強い倦怠が続くなら、血糖値が正常でも受診してください。
この章を先に置くのには理由があります。このあとの章では3.8だの7.1だのという数字が出てきますが、その数字を自分で測れる人は、日本ではほとんどいません。そして実際に危険を知らせるのは、数字ではなく体のほうです。
悪心・嘔吐・腹痛・強い倦怠が続いたら、血糖値が正常でも受診する
血糖値が正常に近くてもケトアシドーシスは起こります。「血糖が正常だから大丈夫」とは判断できません。
【公式仕様】日本糖尿病学会の『SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation』(2022年7月26日改訂)は、第6項でこう書いています。「全身倦怠・悪心嘔吐・腹痛などを伴う場合には、血糖値が正常に近くてもケトアシドーシス(euglycemic ketoacidosis; 正常血糖ケトアシドーシス)の可能性があるので、血中ケトン体(即時にできない場合は尿ケトン体)を確認するとともに専門医にコンサルテーションすること」。
これはSGLT2阻害薬を使っている患者に向けた記載ですが、症状の並び自体は覚えておく価値があります。ケトアシドーシスは腹痛と悪心で始まって急性腹症と誤診されることもあると、同学会の『糖尿病診療ガイドライン2024』にも書かれています。
Kussmaul呼吸と、呼気のアセトン臭
深く大きい呼吸が続く状態と、甘酸っぱい呼気のにおいです。どちらも緊急の受診が必要なサインです。
【公式仕様】『糖尿病診療ガイドライン2024』第20章は、ケトアシドーシスの臨床所見として「1〜2日の経過で、急激な口渇、多飲、多尿、倦怠感が出現し、脱水、種々の程度の意識障害、体重減少を呈する。腹痛、悪心を伴うこともあり、急性腹症と誤診されることもある。代謝性アシドーシスを補正するための過呼吸(Kussmaul呼吸)、呼気のアセトン臭、口腔粘膜の乾燥、低血圧、頻脈などを認める」と記載しています。
ここで注意したいのは、ケトジェニックを始めた人の口臭や呼気が甘くなること自体は、ふつうに起きるという点です。呼気に出るアセトンが増えるからで、それだけでは異常ではありません。問題になるのは、においが単独であるときではなく、嘔吐や腹痛や意識のもうろうと一緒に出ているときです。
妊娠中・授乳中・SGLT2阻害薬服用中は、数値を見る前に医師に相談する
この3つは、健康な人の目安がそのまま当てはまりません。始めるかどうかから医師と決めてください。
理由はあとの章で実数を出しますが、先に結論だけ書いておきます。この3つの状態では、通常なら問題にならない程度の糖質制限でも、血液が酸性に傾いた報告があるからです。ケトスティックの色を見て自分で判断する話ではありません。
| いまの状態 | どうするか |
|---|---|
| 口臭が甘い/だるさが数日でおさまった/ケトスティックの色が薄い | ケトジェニック開始後によくある変化。数値ではなく体調と体重の推移で判断する |
| だるさが2週間以上続く/立ちくらみ・頭痛・便秘が続く | 糖質量・水分・塩分・エネルギー量の設計を見直す。改善しなければ受診する |
| 悪心・嘔吐・腹痛・強い全身倦怠が続く | 血糖値が正常でも受診する。SGLT2阻害薬を飲んでいるなら、その旨を伝えて速やかに受診する |
| 深く大きい呼吸が続く/意識がはっきりしない/水分もとれない | 救急を受診する |
| 妊娠中・授乳中・糖尿病の治療中・SGLT2阻害薬の服用中 | 糖質制限を始める前に医師に相談する |
ケトン体には、脂肪の分解を抑える負のフィードバックがある
ケトン体そのものが、原料になる脂肪の分解を抑えます。増えるほど供給が絞られる向きの仕組みです。
「糖質を切り続けたらケトン体がどこまでも上がっていくのでは」という不安をよく見かけます。実際には、体の中に上がりにくくする向きの仕組みが組み込まれています。ただし後述するとおり、この仕組みがあるからケトアシドーシスにならない、という話ではありません。そこは分けて読んでください。
ケトン体を入れると、脂肪から出てくる原料が半分以下に落ちた
ケトン体を点滴で入れると、脂肪組織から出る脂肪酸の量が50%以上下がりました。健常者でも同じでした。
【公式仕様】Diabetologia誌2025年の無作為化単盲検クロスオーバー試験は、1型糖尿病の男性10人と健常男性10人に、3-ヒドロキシ酪酸(3-OHB)と生理食塩水をそれぞれ3時間点滴して比べています。到達した血中3-OHBは1型糖尿病群で3.3±0.7 mmol/L、対照群で2.9±0.5 mmol/L。このとき遊離脂肪酸は両群とも約0.5 mmol/L下がり、脂肪分解の指標であるパルミチン酸フラックスは1型糖尿病群 78±34 vs 181±79 µmol/分、対照群 90±43 vs 190±97 µmol/分(いずれもp<0.001)と、50%以上抑えられました。
ケトン体は脂肪酸から作られます。その脂肪酸の出どころを、ケトン体自身が絞る。これが「負のフィードバック」と呼ばれる関係です。
ただし、この仕組みだけでケトアシドーシスが防がれているわけではありません
この抑制は1型糖尿病でも保たれていました。つまり、これが壊れることが発症の原因ではありません。
先ほどの試験で著者らが確かめたかったのは、まさにここです。1型糖尿病でこのフィードバックが弱っているならケトアシドーシスの説明になりますが、実際には健常者と同じように働いていました。著者らは、3-OHBによる脂肪分解抑制の破綻が糖尿病性ケトアシドーシスの成立に関わっている可能性は低い、と結論しています。
【公式仕様】『糖尿病診療ガイドライン2024』が示すケトアシドーシスの成り立ちは、インスリンの欠乏と拮抗ホルモンの増加です。ブレーキが1つ効かなくなるという話ではなく、脂肪分解とケトン産生を押し上げる力のほうが強くかかる状態です。だから「健康な人はブレーキがあるから絶対に安全」という読み方はできません。
3.8 mmol/Lは「安全上限」ではない|ケトアシドーシスは数値ひとつで診断しない
ケトアシドーシスは、血糖・ケトン体・血液の酸性度の3つを同時に見て診断します。ケトン体の数値だけでは決まりません。
ネット上では「3.0を超えたら危険」「4.0からケトアシドーシス」といった線引きをよく見ますが、学会の基準はそういう形をしていません。順に見ます。
学会の診断基準は、3つの条件を同時に見ます
高血糖・ケトーシス・アシドーシスの3つです。ケトン体が増えているだけでは、診断の条件を満たしません。
【公式仕様】『糖尿病診療ガイドライン2024』第20章は、糖尿病性ケトアシドーシスを「インスリンの欠乏と拮抗ホルモンの増加により、高血糖(250 mg/dL超)、ケトーシス(β-ヒドロキシ酪酸の増加)、アシドーシス(動脈血pH 7.30以下、重炭酸塩[HCO3⁻]18 mEq/L以下)をきたした状態であり、緊急の対応が必要である」と定義しています。ただしSGLT2阻害薬服用下では高血糖を伴わないことがある、という但し書きが付きます。
ここで大事なのは、3つ目の「アシドーシス」です。血液が実際に酸性側に振れていることが条件に入っています。ケトン体が増えることと、血液のpHが下がることは、別の出来事です。
成人3,800 μmol/Lは「重炭酸18未満に相当すると報告された値」です
これは「この値を超えたら危険」という閾値ではなく、重炭酸イオンの低下と対応する報告値です。
【公式仕様】同ガイドラインは「β-ヒドロキシ酪酸は、小児では3,000 μmol/L以上、成人では3,800 μmol/L以上が、HCO3⁻ 18 mEq/L未満に相当することが報告されている」と書いています。μmol/Lをmmol/Lに直すと、小児3.0・成人3.8です。
この一文の意味を、正確に受け取ってください。「3.8を超えたらケトアシドーシス」でも「3.8までなら安全」でもありません。血液ガスをすぐに測れない場面で、ケトン体の値からアシドーシスの程度をおおまかに見当づけるための対応関係です。しかもこれは糖尿病の患者を診る医療者に向けた記載であって、健康な人が自宅で自分に当てはめる物差しとして書かれたものではありません。
それでも数字の距離感として知っておく価値はあります。栄養性ケトーシスとして報告されている血中の幅は0.5〜5.0 mmol/L(Frontiers in Nutrition 2025のレビュー)で、3.8はその範囲の中に入ってしまいます。濃度だけでは、栄養性ケトーシスとケトアシドーシスは区別できないのです。区別するのは、血糖と、血液が酸性に振れているかどうかと、症状です。
SGLT2阻害薬を飲んでいると、血糖が上がらないことがあります
血糖が正常のままケトアシドーシスに進みます。これを正常血糖ケトアシドーシスと呼びます。
【公式仕様】ガイドラインは「血糖250(または200)mg/dL以下の糖尿病性ケトアシドーシスは正常血糖糖尿病性ケトアシドーシスと定義されている」とし、SGLT2阻害薬服用中と妊娠中に起こりうると記載しています。学会の『SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation』も、「SGLT2阻害薬を服用していると、インスリンが中断されても血糖上昇を伴わないままケトアシドーシスへと進行するため発見が遅れ、重症化させてしまう」と書いています。
| 栄養性ケトーシス | ケトアシドーシス | |
|---|---|---|
| 起きている状態 | 糖質が少ないため、脂肪酸からケトン体を作って使っている | インスリンの欠乏と拮抗ホルモンの増加で、産生が制御できていない |
| 血中ケトン体 | おおむね0.5〜5.0 mmol/L と報告されている | 増加する(成人3,800 μmol/L以上が重炭酸18未満に相当と報告) |
| 血液のpH | 正常の範囲に保たれる | 動脈血pH 7.30以下/重炭酸塩18 mEq/L以下 |
| 血糖値 | 低め〜正常 | 250 mg/dL超。ただしSGLT2阻害薬服用下では正常のことがある |
| 症状 | だるさ・頭痛・便秘など。数日〜数週で落ち着くことが多い | 口渇・多尿・悪心・嘔吐・腹痛・意識障害・Kussmaul呼吸・呼気のアセトン臭 |
| 対応 | 食事と水分・塩分の設計を見直す | 緊急の受診と治療が必要 |
糖質制限中に特に注意が必要な条件|妊娠・授乳・SGLT2・絶食や体調不良
健康な人でも境を越えた報告があるのは、授乳中・妊娠中・SGLT2阻害薬の服用中です。ただし要注意の条件はこれだけではありません。
授乳中|糖質20g未満を10日で、pH 7.20・血中ケトン7.1 mmol/L
糖尿病のない32歳の女性が、授乳中に低糖質食を10日続けてケトアシドーシスで入院した報告があります。
【公式仕様】2015年のJournal of Medical Case Reports(von Geijer & Ekelund)の症例です。生後10か月の子に授乳中だった32歳・非糖尿病の女性が、糖質20g/日未満の低糖質高脂質食を10日間行い、体重が4kg減ったところで悪心・嘔吐・動悸・振戦などを訴えて入院しました。入院時の値はpH 7.20、ベースエクセス −19、血糖3.8 mmol/L(およそ68 mg/dL)、血中ケトン体7.1 mmol/L(基準0〜0.5)。ブドウ糖の点滴と少量のインスリンで、3日で回復し退院しています。
血糖は68 mg/dLで、高血糖ではありませんでした。糖尿病もありませんでした。それでも血液は酸性に振れていました。著者らは「授乳中はこの種の食事を避けるべきである」「授乳中に積極的な減量を行うべきではない」と結論しています。2023年のJCEM Case Reportsにも、ケトジェニック食と完全母乳を組み合わせた31歳・非糖尿病の重症例が報告されています。
母乳を作るには1日300〜500kcal程度の上乗せが必要になります。そこへ糖質を強く制限した減量を重ねると、供給が二重に細くなる。それがこの2例の共通点です。
妊娠中|非妊娠時より低い血糖でケトアシドーシスをきたしやすい
妊娠中は発症頻度が高く、しかも非妊娠時より低い血糖値で起こるという報告があります。
【公式仕様】『糖尿病診療ガイドライン2024』は「妊婦では糖尿病性ケトアシドーシスの発症頻度が高くなり、しかも、非妊娠時よりも低い血糖値でケトアシドーシスをきたしやすいとの報告がある」と記載しています。正常血糖ケトアシドーシスが起こりうる状況としても、SGLT2阻害薬服用中と並べて妊娠中を挙げています。
SNSでは「胎児はケトン体を使うのだから妊娠前からケトン体を出せる体にしておくとよい」という趣旨の投稿が広く拡散し、コミュニティノートで「妊娠中の厳格な糖質制限は一般的に推奨されない」と否定されている場面が見られます。妊娠中の食事は、この記事の範囲ではなく主治医と決める話です。
SGLT2阻害薬服用中|学会が「糖質制限が疑われる場合は投与を控えるべき」と書いています
極端な糖質制限がケトアシドーシスの原因として明記されており、投与を控える判断材料になっています。
【公式仕様】『SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation』(2022年7月26日改訂)の「副作用の事例と対策/ケトアシドーシス」にはこうあります。「インスリンの中止、極端な糖質制限、清涼飲料水多飲などが原因となっており、服薬開始時には十分な問診を行い、ケトアシドーシスやその初期症状を繰り返す場合や糖質制限が疑われる場合は投与を控えるべきである」。
SGLT2阻害薬は、糖尿病だけでなく心不全や慢性腎臓病でも処方されます。商品名で言えばフォシーガ、ジャディアンス、スーグラ、カナグル、ルセフィなどです。自分の薬がこれに当たるかどうかは、お薬手帳と処方元で確認してください。当たる場合、糖質制限を始めるかどうかは自分で決める話ではありません。
学会が挙げている条件は、この3つだけではありません
飢餓状態・低炭水化物食・感染症・脱水・アルコール多飲・肝疾患・やせなども挙げられています。
【公式仕様】『糖尿病診療ガイドライン2024』は、正常血糖ケトアシドーシスの背景因子として、SGLT2阻害薬服用中・妊娠中に加えて「飢餓状態、低炭水化物食、敗血症、慢性的なアルコール摂取、肝疾患」を挙げています。また『SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation』は、臨床試験の報告として「アルコール多飲者、感染症や脱水など、女性、非肥満・やせ(BMI<25)などでのケトアシドーシスの増加が報告されている」と記載しています。
実務的に言い直すと、糖質制限そのものより、そこに重なる「食べられない日」のほうが危ないということです。胃腸炎で吐いている、熱が出て水も飲めていない、前の晩に飲みすぎた。そういう日に糖質制限を続けると、条件が重なります。糖質制限の初期症状で説明した「だるさ」とは別の話として、この日は休むという判断を持っておいてください。
| 条件 | 何が報告されているか | 出典 |
|---|---|---|
| 授乳中 | 非糖尿病の32歳が糖質20g/日未満を10日でpH 7.20・血中ケトン7.1 mmol/L。血糖は68 mg/dLで正常 | J Med Case Rep 2015(症例1例) |
| 妊娠中 | 発症頻度が高くなり、非妊娠時より低い血糖でケトアシドーシスをきたしやすいとの報告 | 糖尿病診療ガイドライン2024 |
| SGLT2阻害薬服用中 | 極端な糖質制限が原因になる。糖質制限が疑われる場合は投与を控えるべき | SGLT2阻害薬 適正使用Recommendation 2022 |
| 飢餓状態・低炭水化物食・敗血症・慢性的なアルコール摂取・肝疾患 | 正常血糖ケトアシドーシスの背景因子として列挙 | 糖尿病診療ガイドライン2024 |
| アルコール多飲・感染症・脱水・女性・非肥満/やせ(BMI<25) | 臨床試験でケトアシドーシスの増加が報告されている | SGLT2阻害薬 適正使用Recommendation 2022 |
表3の下2行は糖尿病の診療を前提に書かれた記載です。健康な人が糖質制限をしたときの発症率を示すものではありません。ここで押さえてほしいのは「要注意の条件は3つに限られない」という一点で、条件が重なる日には無理をしない、という運用の話として読んでください。
ケトスティックで分かること・分からないこと
分かるのは「尿にアセト酢酸が出ているか」だけです。血中のケトン体がいくつかは分かりません。
血液・尿・呼気の数値は、単位が同じでも相互に換算できません
3つは別々の物質を、別々の場所で測っています。数字を置き換えることはできません。
ケトン体は3種類あり、測り方によって見ているものが変わります。血液で測るのはβ-ヒドロキシ酪酸、尿の試験紙が反応するのは主にアセト酢酸、呼気で測るのはアセトンです。しかも尿は「血液の中の濃度」ではなく「腎臓を通って捨てられた量」を、水分量に薄められた状態で見ています。
ここを混ぜると話が壊れます。「呼気が40 ppmだから血中は高い」「尿がLargeだから血中16」という換算は成立しません。
チャートの「16 mmol/L」は、血中の16ではありません
試験紙のチャートに並ぶ数値は、尿の中のアセト酢酸の濃度です。血液の値ではありません。
ケトスティック型の試験紙は、色見本の横に Trace 0.5/Small 1.5/Moderate 4.0/8.0/Large 16 といった数値が mmol/L で並んでいます。これを血中の値だと思って読むと、話が一気にこじれます。血中16 mmol/Lという値は、ケトアシドーシスの重症域の話です。尿試験紙が最大に発色したからといって、その人の血液が16になっているわけではありません。
逆向きの誤解も起きます。「Largeまで振り切ったから、いちばん深いケトーシスに入れた」という読み方です。尿に多く捨てられているという事実は、体がケトン体を使い切れていないことのあらわれでもあります。多く出ている=うまくいっている、とは限りません。
色が薄くなっても、失敗とは限りません
ケトーシスが続くと尿に出る量が減るためです。ただし糖質が増えたときにも薄くなります。
【公式仕様】Frontiers in Nutrition 2025のレビューは、「持続的なケトーシスに適応するにつれてアセト酢酸の腎再吸収が増加し、尿中排泄が減るため、ケトーシスの評価における尿試験紙の信頼性が下がる」と記載しています。さらに、栄養性ケトーシスの文脈では水分の状態が精度に大きく影響することも指摘しています。
ただし、色が薄くなる理由はこれだけではありません。糖質の摂取量が増えた/ケトーシスから抜けた/水を多く飲んだ/試験紙が湿気で劣化した——どれでも薄くなります。だから「色が薄い=適応が進んだ証拠」と決めつけることもできません。言えるのは、色が薄くなったという一事だけでは、うまくいっていないとは判断できないということです。
水を飲めば薄くなります|朝一番と夜で別の色が出ます
尿の濃さそのものが色を左右します。同じ日でも、測る時間で結果が変わります。
尿試験紙は濃度を見ています。水をたくさん飲んだあとの薄い尿では色が出にくく、朝一番の濃い尿では出やすい。それだけの理由で、同じ体の状態が別の色になります。どうしても記録を取りたいなら、時刻と水分の条件を固定してください。条件を揃えていない日の色を、前日と比べる意味はほとんどありません。
| 尿試験紙(ケトスティック等) | 血中ケトン体 | 呼気アセトン | |
|---|---|---|---|
| 測っているもの | 主にアセト酢酸 | β-ヒドロキシ酪酸 | アセトン |
| 表示 | 色の濃さ/+の数(チャートに mmol/L 表記) | mmol/L | ppm |
| 強いところ | 安価。始めた直後の変化は分かりやすい | いま血液にある量が分かる。研究で使われる基準 | 穿刺が不要。繰り返し測りやすい |
| 弱いところ | 水分量に左右される。続けると出にくくなる | 穿刺が必要。日本では入手の制約が大きい | センサーの特性や呼吸の仕方で変わる |
| 日本での位置づけ | ケトン体を測る一般用検査薬は承認されていない | 自己測定の保険適用はSGLT2阻害薬服用中の1型糖尿病 | 一般向けの機器として販売されている |
ケトン体が高い=体脂肪が多く燃えている、ではありません
ケトン体の高さは、体脂肪がどれだけ減ったかを示す数字ではありません。食べたものでも動きます。
MCTオイルや外因性ケトンでも数値は上がります
体脂肪が減らなくても、口から入れた脂質やケトン体で数値は上げられます。
MCTオイルは中鎖脂肪酸で、肝臓でケトン体に変わりやすい性質があります。ケトン体そのものを飲むサプリメント(外因性ケトン)もあります。どちらも血中や呼気のケトン体を上げますが、その分の体脂肪が減ったわけではありません。SNSで見かける「MCTを足したら反応が復活した」という報告は、体の状態が変わったのではなく、原料を外から入れた結果である可能性があります。
親記事で書いたとおり、代謝を測った実験でも「ケトーシスに入った=体脂肪が減っている」ではありませんでした。呼吸商が下がっても、燃えている脂質には食事から摂った脂質が含まれます。
「色を濃くするゲーム」になっていないか
毎朝の色が目的になると、脂質を足す方向に食事が動きます。減量の目的から離れていきます。
SNS上では「色が変わってくるとテンションが上がる」「最大反応」「色濃いめ!」といった投稿が、うまくいかない報告よりも目立ちます。色は毎日出るので、体重より早く、はっきり反応してくれる。だから指標として気持ちがいいのですが、ケトン体の高さと減量の成績は、少なくとも先ほどの研究では0.5を超えたあと結びついていません。
ケトスティックを使うなら、この3つだけ決めておく
・使う期間:開始から2週間くらいまで。「糖質を減らせているか」の確認として使う。その後は当てにならなくなる
・条件:時刻と水分を固定する。朝一番なら毎日朝一番で測る
・判断材料:色は補助。判断は体重の1週間平均・体調・続けられそうか、で行う
日本でケトン体を測る手段は、実際どうなっているか
一般の人が血中ケトン体を正確に測る手段は、日本では事実上ありません。制度の側で整理されていないためです。
一般用検査薬に、ケトン体は入っていません
薬局で買える一般用検査薬として、ケトン体を測る製品は承認されていません。
【公式仕様】日本で一般用検査薬(自分で検査して自分で判断してよい製品)として承認されてきたのは、尿糖・尿蛋白・妊娠検査に始まり、その後に排卵日予測、さらに新型コロナウイルスやインフルエンザの抗原検査キットが加わった範囲です。ケトン体はこの中に含まれていません。医療機関で使われる尿試験紙は体外診断用医薬品で、こちらは一般向けの製品ではありません。
では通販で「ケトスティック」として売られているものは何かというと、そのどちらにも当たらない製品です。使うなというつもりはありませんが、薬局で買える尿糖試験紙のような、国内で審査された製品と同じ扱いのものではないということは知っておいてください。
血中の自己測定が保険で通るのは、SGLT2阻害薬服用中の1型糖尿病だけです
2022年4月に在宅での血中ケトン体自己測定が認められましたが、対象は限定されています。
【公式仕様】『SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation』は「本邦では、2022年4月よりSGLT2阻害薬服用中の1型糖尿病患者の在宅での血中ケトン体自己測定が可能となった」と記載しています。診療報酬上は血中ケトン体自己測定器加算として、3月に3回に限り40点という扱いです。
つまり、日本で血中ケトン体を継続的に測っている人は、ダイエットをしている人ではなく、ケトアシドーシスのリスクを管理している患者です。減量目的で自費で回している人の声は、SNSを探してもほとんど見つかりません。血糖値の自己測定とは、入手のしやすさが大きく違います。
呼気(ケトスキャン)の「Danger」表示をどう扱うか
呼気の機器の警告表示は、医学的な診断ではありません。症状がなければ、表示だけで慌てる必要はありません。
呼気アセトンを測る家庭用機器では、数値に応じてCAUTIONやDangerといった段階表示が出るものがあります。SNSでは、その表示が出ていても「よくある数値、体調はとてもよい」と書いている投稿が見られます。その受け止め方自体は、大きく間違ってはいません。呼気アセトンの数値はケトアシドーシスの診断基準に入っていないからです。
ただし、逆向きの油断もしないでください。表示が緑でも、悪心・嘔吐・腹痛が続いているなら受診の対象です。この記事で繰り返している順序——症状が先、数値はあと——は、呼気でも同じです。
まとめ
ケトン体の数値は、上げるものではなく、条件を確認するためのものです。判断の順序は症状が先です。
この記事で確かめたことを、短く並べておきます。
- 217人・14日の連日測定で体重減少と最も関連したのは、血中β-ヒドロキシ酪酸0.5 mmol/L以上。それより高くすれば減る、という結果ではない
- 3.8 mmol/Lは安全上限ではない。成人で重炭酸18 mEq/L未満に相当すると報告された値であり、ケトアシドーシスは血糖・ケトン体・血液の酸性度の3つを同時に見て診断する
- ケトン体には脂肪分解を抑える負のフィードバックがあるが、それが壊れることがケトアシドーシスの原因ではない
- 特に注意が必要なのは授乳中・妊娠中・SGLT2阻害薬服用中。加えて飢餓状態・感染症・脱水・アルコール多飲・肝疾患・やせも学会が挙げている
- ケトスティックが見ているのは尿中のアセト酢酸。血液・尿・呼気の数値は相互に換算できない。チャートの「16 mmol/L」は血中の16ではない
- 色が薄くなっただけでは失敗とは判断できない。水分と時刻で色は変わる
- ケトン体が高い=体脂肪が燃えている、ではない。MCTオイルや外因性ケトンでも数値は上がる
- 悪心・嘔吐・腹痛・強い倦怠が続いたら、血糖値が正常でも受診する
毎朝の色に一喜一憂している人へ、いちばん実用的な結論を書いておきます。ケトスティックは、始めて2週間くらいまでの「糖質を減らせているか」の確認に使う道具です。それ以降は当てになりません。続けるかどうかの判断は、体重の1週間平均と、体調と、この食事を続けられそうかどうかで決めてください。やり方そのものの設計は、ケトジェニックダイエットの記事と糖質は一日何グラムまでかの記事にまとめています。
よくある質問
Q. ケトン体の数値は、どれくらいを目標にすればいいですか?
A. 目標値として狙うより、0.5 mmol/L以上に届いているかどうかの確認にとどめてください。217人・14日の研究で体重減少と最も関連したのがこの値で、それ以上に上げると多く減るという結果は出ていません。
Q. ケトスティックの色が最大まで振り切りました。危険ですか?
A. 尿試験紙の発色だけでは危険かどうかは判断できません。見ているのは尿に捨てられたアセト酢酸の濃度で、血液の値ではないからです。判断材料になるのは、悪心・嘔吐・腹痛・強い倦怠といった症状のほうです。
Q. 何日で色が出ますか。3日たっても出ません。
A. 日数の目安を尿試験紙に当てることはできません。研究で測られているのは血中の値で、尿の発色とは別のものだからです。色が出ない場合は、糖質の量が想定より多い可能性のほうを先に確認してください。
Q. 糖質制限を続けると、ケトアシドーシスになりますか?
A. 健康な人の通常の糖質制限で起きるとは限りませんが、条件が重なると報告があります。学会は飢餓状態・低炭水化物食・感染症・脱水・アルコール多飲・肝疾患・やせを背景因子として挙げています。食べられない日や体調を崩した日は、続けない判断をしてください。
Q. 授乳中にケトジェニックをしても大丈夫ですか?
A. すすめられません。糖尿病のない32歳の女性が糖質20g/日未満を10日続けてケトアシドーシスで入院した症例報告があり、著者らは授乳中にこの種の食事を避けるべきだと結論しています。妊娠中も同様に、主治医と相談してください。
Q. 血中ケトン体の測定器は、自分で買えますか?
A. 日本では入手の制約が大きく、減量目的で使っている人はほとんどいません。在宅での血中ケトン体自己測定が保険で認められているのは、SGLT2阻害薬を服用中の1型糖尿病の方に限られています。
参考文献
この記事で数値を引いた資料は次のとおりです。学会のガイドラインと原著論文にあたっています。
- 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』第20章 糖尿病における急性代謝失調・シックデイ(感染症を含む) 20-1 糖尿病性ケトアシドーシスの診断と治療はどのように行うか? 日本糖尿病学会
- 日本糖尿病学会 SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会『糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation』策定2014年6月13日/2022年7月26日改訂 日本糖尿病学会
- Paoli A, Cerullo G, Paoli S, et al. Defining a ketone threshold for weight loss: evidence from 14 day daily β-hydroxybutyrate monitoring in 217 subjects on a ketogenic diet. Nutrition & Diabetes. 2026. Nature
- Svart M, et al.(3-ヒドロキシ酪酸静注による脂肪分解抑制のクロスオーバー試験)Diabetologia. 2025. PMC
- von Geijer L, Ekelund M. Ketoacidosis associated with low-carbohydrate diet in a non-diabetic lactating woman: a case report. Journal of Medical Case Reports. 2015;9:224. PMC
- Severe Lactation Ketoacidosis in a Nondiabetic Mother on a Ketogenic Diet. JCEM Case Reports. 2023;1(6):luad134. PMC
- The role of β-hydroxybutyrate testing in ketogenic metabolic therapies. Frontiers in Nutrition. 2025. PMC
- 厚生労働省 医薬食品局長通知「一般用検査薬の導入に関する一般原則」薬食発1225第1号(平成26年12月25日) PMDA
本文の数値は、上記のガイドライン・論文に記載された値をそのまま引いたものです。SNS上の言い回しに触れた箇所は、X(旧Twitter)を2026年8月29日に検索して実際に確認できた投稿にもとづくもので、頻度や代表性を示すものではありません。制度・診療報酬・製品仕様は改定されます(2026年8月時点の情報)。この記事は健康な成人が自分で測った数値を扱う際の判断材料を示すもので、診断・治療に代わるものではありません。持病のある方、薬を飲んでいる方、妊娠中・授乳中の方は、始める前に医師に相談してください。
