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ヒロクリニックのNIPTは怪しい?臨床検査技師が公開データを確かめた

ヒロクリニックのNIPTは怪しい?臨床検査技師が公開データを確かめた

先日、友人から「ヒロクリニックのNIPTって、なんだか怪しくない?」と聞かれました。広告をよく見かけるし、受けられる項目も多い。だからこそ不安になる、という気持ちはよく分かります。臨床検査技師として検査の数字を毎日見ている立場から、公開されている数字と検査の体制を少し調べてみました。調べてみると、思っていたより面白いことが分かりました。いちばん驚いたのは、精度の数字そのものより、その数字を支えている「受検者の数」と「確定検査の結果まで集めたデータ」です。せっかくなので、記事にまとめておきます。なお、この記事はヒロクリニックから依頼や報酬を受けて書いたものではありません。

この記事でわかること

  • 結論: 今回確かめた公開資料の範囲では、数字の出し方や検査の限界の書き方に、不自然な点は見当たりませんでした
  • 怪しいと言われる理由: 認証施設ではないこと、調べられる項目が多いこと、広告が多いことの3つが主な理由です
  • いちばんの見どころ: 日本のNIPTは、認証施設のグループが約10万件、ヒロクリニックが単独で約5万人分の実データを集計し、陽性的中率を公開しています
  • 数字の読み方: 感度・陰性的中率と陽性的中率は意味の違う数字で、陽性的中率は年齢や病気の頻度で大きく変わります
  • 注意点: NIPTは可能性を示す検査で、陽性だけでは診断できず、確定には羊水検査などの確定検査が必要です
目次

ヒロクリニックのNIPTは怪しいのか

今回確かめた公開資料の範囲では、数字の出し方・検査の場所・陽性時の対応に、怪しいと判断できる点は見当たりませんでした。

私が検査の「うしろ側」を見るときに確かめるのは、次の4点です。

  • 確定診断のように見せていないか
  • 精度の数字に、意味の違う数字を混ぜていないか
  • どこで、どうやって検査しているかを開示しているか
  • 陽性が出た人を、その後どう受け止めるか

ヒロクリニックの公式サイトでは、NIPTは「非確定的検査」であり、陽性のときは羊水検査などの確定検査が必要だと繰り返し書かれていました。検査は関連会社の「東京衛生検査所」(国内)で行うと明記され、陽性時の羊水検査の費用補助も用意されています。

一方で、公開資料だけでは確かめられないこともあります。検査所の中の精度管理の記録や、検体の取り違えの実際の件数などは外からは見えません。この記事で書けるのは「公開されている情報が筋の通ったものか」までです。

検査を売る側が、検査の限界を自分から書くのは簡単ではありません。限界をぼかさずに書いていることは、少なくとも数字だけで安心させようとする書き方とは違う、というのが私の第一印象でした。

「怪しい」と言われる3つの理由

怪しいと言われる主な理由は、認証施設ではないこと、調べられる項目が多いこと、広告をよく見かけることの3つです。

日本では、日本医学会が「出生前検査認証制度」を設けています。認証を受けた施設(認証施設)では、ダウン症を含む3種類(13・18・21トリソミー)に対象を絞り、遺伝カウンセリングで相談しながら進めます。ヒロクリニックはこの枠の外で、より多くの項目を、より受けやすい形で提供している施設です。違いを整理すると次のとおりです。

比較項目 ヒロクリニック 認証施設
検査内容 3種類のトリソミーに加え、性染色体・微小欠失・微小重複など ダウン症を含む3種類
性別判定 希望に応じて可能 なし
遺伝カウンセリング 医師が実施。一人での受検・オンライン診療にも対応 認証施設の体制で実施
陽性時の報告 陽性・陰性に加え、陽性スコアと陽性的中率 陽性・陰性
羊水検査の費用 東京衛生検査所での解析費用は負担。他院では有料のサポートプラン加入者に最大10万〜30万円を補助 施設により異なる

表はヒロクリニックと出生前検査認証制度等運営委員会の公開ページ(2026年10月時点)をもとにしています。

認証施設が対象を3種類に絞っているのは、精度と検査の意味が確かめられている範囲に限るためです。性染色体や微小欠失・微小重複は、3種類のトリソミーと同じだけの精度の裏付けがあるわけではありません。また、まれな病気ほどもともとの頻度が低いため、陽性が出ても本当に陽性である割合(陽性的中率)は低くなりやすくなります。多くの項目を一度に調べれば、どれかで陽性が出て確定検査を考える場面も増えます。

広告の多さは、検査の中身とは関係がありません。見るべきは広告の量ではなく、次の見出しで書く「数字の出し方」です。

検査技師がいちばん驚いたのは、確定検査の結果まで集めた数万人規模のデータ

日本のNIPTは、認証施設のグループが約10万件、ヒロクリニックが単独で約5万人分の実データから陽性的中率を出しています。

認証施設の多くが参加する「NIPTコンソーシアム」は、2013年から2021年3月までの101,218件を集計しています。ヒロクリニックは、2025年10月時点の受検者51,300人のうち、NIPTで陽性となり羊水検査の結果を集計できた人の数字を公開しています。並べると次のとおりです。

対象 ヒロクリニック(受検者51,300人時点) NIPTコンソーシアム(101,218件)
21トリソミー(ダウン症) 107人中92人=85.98% 981人中955人=97.3%
18トリソミー 44人中32人=72.72% 417人中367人=88.0%
13トリソミー 17人中7人=41.17% 138人中75人=54.3%

人数は、NIPTで陽性となり確定検査の結果が分かった人のうち、本当に病気があった人です。

私が検査の現場で読んできた検査試薬の資料では、性能は数百件規模の試験で示されるものが大半でした。NIPTについては、国内だけで数万〜10万件規模の受検者を確定検査の結果と照らした集計が公開されています。この規模の実データがある検査は多くありません。

もう一つ注目してほしいのは、ヒロクリニックが「良い数字」だけを出していないことです。13トリソミーでは、羊水検査の結果が分かった17人のうち本当に病気があったのは7人で、半分以下でした。都合の悪い数字も、そのまま載せています。

ヒロクリニックの陽性的中率がコンソーシアムより低く見えるのは、受ける人の年齢の違いが大きいと考えられます。コンソーシアムの受検者は平均38.4歳で、2022年までは原則35歳以上の人が対象でした。ヒロクリニックは年齢制限がないため、もともとの頻度が低い若い受検者が含まれます。同じ性能の検査でも、若い集団ほど陽性的中率は下がります。この表は施設の優劣を比べるものではなく、陽性的中率が受ける人によって変わることを示す例として読んでください。

読むときの注意もあります。ヒロクリニックの分母は「陽性で羊水検査の結果を集計できた人」で、陽性になった人全体のうち何割が羊水検査まで進んだのかは公開ページからは分かりません。羊水検査を受けなかった人が多ければ、数字は実際とずれる可能性があります。また、公式サイトでよく見る「75,000件」は2026年6月時点の検査の実績の数で、陽性的中率の集計(51,300人時点)とは別の数字です。

感度・陰性的中率・陽性的中率は何が違うのか

感度は病気の人を拾える割合、陰性的中率と陽性的中率は結果が本当に正しかった割合です。

  • 感度: 本当に染色体の変化がある人を、検査で「陽性」と拾える割合。取りこぼし(偽陰性)の少なさを示します。ヒロクリニックは公式サイトで99.9%以上(対象疾患)と表示しています
  • 陰性的中率: 「陰性」と出た人のうち、本当に変化がない人の割合。ヒロクリニックは99.99%と表示しています
  • 陽性的中率: 「陽性」と出た人のうち、本当に変化がある人の割合

陰性的中率と陽性的中率は、検査の性能だけでなく、受ける人のなかにもともとどれくらい病気の人がいるかで変わります。もともとの頻度が低い集団では、検査の性能が同じでも、陽性のなかに「本当は陰性の人」が混ざる割合が高くなります。海外の大規模研究でも、15,841人の妊婦を対象にした試験で、21トリソミーの陽性的中率は80.9%(95%信頼区間66.7〜90.9%)と報告されています(Norton ME, et al. N Engl J Med. 2015. PMID:25830321)。

ヒロクリニックは、陽性になった人に「陽性スコア」(陽性と陰性の境目からどれだけ離れているかを示す数値)と、年齢・妊娠週数から見積もった陽性的中率を報告書で返しています。陽性スコアはヒロクリニック独自の補助的な目安で、確定診断の代わりにはなりません。スコアが低くても、陽性を否定できるわけではありません。

「陽性」の一言だけで返されると、受け取った人は白か黒かで考えてしまいます。境目からの距離を数字で添えるのは、私たちが検査値を読むときの感覚に近いやり方です。ただし、その数字をどう受け止めるかは、医師と相談しながら決めるものです。

Q. 感度99.9%なら、陽性はほぼ確定ですか?

A. 確定ではありません。感度は「拾える割合」で、陽性の人が本当に陽性かどうかは陽性的中率で見ます。ヒロクリニックの集計でも、ダウン症の陽性的中率は85.98%でした。

陽性が出ても、確定検査の結果が出るまで診断はつかない、ということです。

検査はどこで行われ、結果は何日で届くのか

検査は関連会社の東京衛生検査所(国内)で行われ、血液が検査所に届いてから2〜5日で結果が届きます。

公式サイトによると、特急便なら最短2日、95%以上が5日以内に届くとされています。早さの理由は、検体を海外へ送らずに国内で検査していることと、自動分注機(検体を機械で分ける装置)や次世代シーケンサー(大量のDNA断片を一度に読む装置)を入れていることだと説明されています。

検体を人の手で移し替える回数を減らすことは、一般に取り違えや混入を防ぐ手段の一つです。ただし、設備の説明だけで、その施設の取り違えの少なさや精度までは評価できません。

注意したいのは、2〜5日は「検査所に届いてから」の日数だという点です。採血した日から数えると、配送の日数が加わります。

結果が出ない「判定保留」になる割合は、約0.3〜0.4%と公表されています。多くは、母体の血液に含まれる赤ちゃん由来のDNAの量が足りないことが原因です。

陽性だったときはどうなるのか

陽性だけでは診断はつかず、確定するには羊水検査などの確定検査が必要です。受けるかどうかは、説明を受けて相談したうえで決めます。

羊水検査は一般に妊娠16〜18週ごろに行われ、流産や破水のおそれが約0.3%(およそ300回に1回)あるとされています。費用は一般に10万〜20万円ほどです。NIPTの陽性は、胎盤だけに染色体の変化がある場合(胎盤限局性モザイク)など、赤ちゃん自身に変化がなくても出ることがあります。確定検査が必要なのはこのためです。

ヒロクリニックでは、羊水を東京衛生検査所に提出する場合、解析費用をクリニックが負担します。ただし、羊水を採る医療機関の手技料や通院費は別にかかることがあります。他院で羊水検査を受ける場合の補助は、事前に有料のサポートプラン(3,300円・5,500円・11,000円)に入っていた人が対象で、上限はプランに応じて10万円・20万円・30万円です。適用には基準があります。

受けやすさを広げた施設で私がいちばん気にするのは、陽性になった人を放り出していないかです。確定検査の受け先や相談の場を用意しているかどうかは、施設を選ぶときの大事な目安になります。確定検査を受けるか、その後どうするかは、産婦人科や臨床遺伝の専門家とよく相談して決めてください。

口コミ・レビューはどう読めばいいか

院ごとの口コミやレビューで分かるのは受付や待ち時間などの対応で、検査の精度は口コミでは判断できません。

ヒロクリニックは直営院10院と連携クリニック115院(2026年6月時点)で受けられるため、院ごとのレビューが多く出てきます。待ち時間・説明の丁寧さ・予約の取りやすさは、レビューを見る価値があります。

一方で、精度について「当たった」「外れた」という口コミは、一人ひとりの結果にすぎません。精度は、この記事で紹介したような多人数の集計で見るものです。対応は口コミで、精度は公開データで、と分けて読むのがおすすめです。

それでも知っておいてほしいNIPTの限界

NIPTは可能性を示す検査で、陰性でもすべての病気を否定できるわけではありません。

  • 陽性だけでは診断できず、確定には羊水検査などの確定検査が必要です
  • 陰性的中率99.99%は非常に高い数字ですが、100%ではありません
  • 調べる対象に入っていない病気や、染色体の数以外の変化は分かりません
  • 受けるかどうか、結果をどう受け止めるかは、本人とパートナーが医師と相談しながら決めることです

検査に「絶対」はありません。検査の現場にいるほど、それを強く感じます。だからこそ、数字の高さだけで施設を選ばず、結果の説明とその後の相談の場があるかで選んでほしいと思います。

ヒロクリニックのNIPTでよくある質問

Q. 結果は何日でわかりますか?

A. 血液が検査所に届いてから2〜5日です。特急便なら最短2日で、95%以上が5日以内に届くと公表されています。採血日から数える場合は配送の日数が加わります。

Q. 赤ちゃんの性別もわかりますか?

A. 希望すれば調べられます。認証施設では性別判定は行っていないので、ここは大きな違いです。

Q. 判定保留になることはありますか?

A. まれにあります。割合は約0.3〜0.4%と公表されていて、主な原因は赤ちゃん由来のDNAの量が足りないことです。時期を空けて再検査することが多いです。

Q. 認証施設と比べて精度は低いのですか?

A. 公開されている数字だけでは、どちらが上とは判断できません。受ける人の年齢や対象の病気、集計の方法がそろっていないためです。違いがはっきりしているのは、調べる項目の範囲と受け方の条件です。

Q. 「75,000件」は精度を確かめた件数ですか?

A. いいえ、検査の実績の数(2026年6月時点)です。陽性的中率は、受検者51,300人時点で陽性となり羊水検査の結果を集計できた人の数字から出されています。

参考情報

この記事を書いた人

臨 臨床ブロガー 臨床検査技師/18年・88kg→65kg

検査値を通して人の体を見てきました。論文を確認し、自分の実測とは分けて書いています。医師・管理栄養士ではなく、診断・治療・服薬の判断は行いません。

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